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 ほか、歌詞だと挙げやすいので例を挙げるなら、「片足無くした猫が笑う」(「結んで開いて羅刹と骸」)とか、カラスが「君はもう大人になってしまった」と言ってくるとか(「リンネ」)。「首なし閑古鳥」はタイトルがもう強い異形のイメージを差し出しています。

 さて、「vivi」はいまや米津玄師初期の作品です。その後、米津玄師はどんどんメジャーになってファンを増やしていきました。だから、世の中にはこういう声もあるようです。曰く、「メジャーになっていくのに反比例するように、丸くなってしまった」。あるいは、尖った部分を隠すことで一般大衆に受け入れられていったのだとか。ハチや米津初期にあった毒が、最近では解毒されてしまったと言う人もいるようです。

 ハチ≠米津玄師。果たしてそうでしょうか。ここから、そのような考え方に反論していきます。すなわち今日の講義は、そのような考え方へのアンチテーゼとしての「ハチ=米津玄師論」です。

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 たとえば「Lemon」。18年2月に発表され瞬く間に大ヒットし、同年末の紅白歌合戦で歌唱され、翌年以降も勢いを落とすことなくカラオケのチャート上位にとどまりつづけた、名実ともに国民的アーティスト米津玄師を代表する1曲です。同曲の歌詞は、喪失の感情をストレートに表現するものであり、たしかに「毒がある」というものではないかもしれません。ですがこの曲には、むしろ誰もが気づくかたちで毒が存在してはいないでしょうか。

かたちを変え反復される「嘔吐」

 なんのことでしょうか。読解を始める前に、まずここで実際に聴いてみましょう。

 ♪米津玄師「Lemon」

 

「未だにあなたのことを夢に見る」のあとに最初に登場し、その後4小節毎に繰り返される「ウェッ」という声。この曲を最初に聴いたときに、この声が耳に引っかからない人はほとんどいないんじゃないでしょうか。

 果たしてネットでもかなり話題になったようです。ネットで、この声を「小さいオッサンがえずいている声」と表現している人がいて、ウケましたw この曲はテレビドラマ「アンナチュラル」の主題歌でした。金曜の夜になるたびに、この「ウェッ」が日本中のお茶の間に鳴り響いたのだと想像するとワクワクしたし、改めて、米津さんが米津さんのままスターダムに登ってくれたことを心から嬉しく思ったものです。