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 やはり目立つ部分なので、あるラジオ番組出演時にこの声について問われて、彼はこう答えていたようです。「声をサンプリング(注2)し、リズムの一部として反復的に使うのは、ヒップホップの手法としてはよくあるもの」と。それはたしかにそう。でも、問題はそこではないでしょう。なぜそのように反復的に使用する声が、えずいているような「気持ち悪い声」でなければいけなかったのか。

 ただ、これも以前からのハチ/米津玄師の作品を聴きつづけている人にとっては、そこまで驚くべきものではなかったはずです。このような表現はこれまでもあった。

 ひとつの例は、先ほど聴いたばかりの「砂の惑星」です。イントロ冒頭からさっそく、なにを言っているかわからない加工された声で始まりますよね。「アンビリーバーズ」のイントロでも、「フェ……ッ」みたいな声が偶数小節の4拍目ごとに繰り返されます。

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 では次の一例として、「ドーナツホール」を聴いてみましょう。

 ♪ハチ「ドーナツホール」

 

 この曲でも、イントロに「おっおっおっ、”#$%&’」みたいな、なにを言っているかわからない気持ち悪い声が入っています。

 それに加え、動画の中に、こういうイラストがサブリミナルのように一瞬だけ挿入されます。みなさんの動体視力はこれを捕らえられたでしょうか?

 解釈によって見え方は変わりますが、女性が下を向いて、嘔吐(おうと)しているかのようなシーンです。慟どう哭こくしているかのようでもありますが。

 吐き気を催しているかのような声。それは聴いて気持ちのいい声ではありませんし、こちらに吐き気を催させるような声でもあるでしょう。さらには、この「嘔吐」というモチーフは視覚的にもさまざまな作品で反復されているわけです。

 歌詞においてもそうです。受講生のひとりが以前作ってくれた米津玄師楽曲の歌詞に出てくる「吐く、嘔吐」の表を見てみましょう。(画像を参照)

表1-1『東京大学「ボーカロイド音楽論」講義』より

 このように、歌詞の中でも嘔吐というモチーフは何度も反復されています。音声、映像、歌詞と、その時々によって顕れる次元を変えながら、米津玄師の表現には嘔吐というモチーフが長らくついて回っているのです。