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ダミーヘッドによるバイノーラル録音

 BLCDの他には、女性向けシチュエーションCDというジャンルもあります。こちらは、攻め役と受け役という2人の声優で演じるBLCDとちがって、基本的には演じる声優は1人です。CDの聞き手に向けて語りかけるような特定のシチュエーション、たとえば女性に添い寝する男性といった場面を想定したストーリーを声優は演じるんです。

 このジャンルには、ダミーヘッドマイクを使ったバイノーラル録音というおもしろい手法があります。

 これは最新のステレオ録音方式の一つで、人間の頭部と耳の構造を真似して作られた模型(ダミーヘッド)を用いて録音する技術です。耳の部分にマイク機能が備わっていて、実際に人が音を耳にしているのとまったく同じ条件のもとで録音しようという仕組みになっています。これで録音した音をヘッドホンやイヤホンで聞くと、一つ一つの音が、あたかもその場にいるかのような臨場感で伝わってきます。

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ダミーヘッドマイク「KU 100」NEUMANN公式サイトより

 ダミーヘッドマイクを使う場合、動きながらの収録になるんです。ダミーヘッドマイクを聞き手の耳だと想定して、このセリフは聞き手とどれくらい密着したところでしゃべっているのか、右からなのか左からなのか……前後左右・上下・距離感といったすべてが、声の聞こえ方に関わってきます。それによって、芝居を立体的にイメージできるので役者心をくすぐるものがあります。

 実際は、脚本の中身にあわせて台本で立ち位置が指定されているので、それを守りながら演じていくことになります。どう動くかを、声優が一から考えないといけないわけではありません。それでも動くことによって、気をつかわないといけないことが演技の細部にわたって増えますから、演じる身としては苦労が多い手法です。

 それにくわえて、ダミーヘッドマイクもまだまだ完璧なマイクではないんです。完璧なマイクという言い方も変かもしれませんが。繊細なマイクなので、耳もとでささやいたりすると自分の息がマイクにあたってノイズになってしまい、NGになるなどトラブルも多くあります。そのため、収録に時間がかかります。