──管理の強化は、習近平氏本人の意向によるものだと思いますか?
王:そう思います。指導者としての彼は、メディアが第三の社会的なパワーになることを嫌っていて、党の絶対的な権威を確立したいと考えている。メディアによる権力の監督は不要だ、自分で自分を監督すれば十分だと思っているのでしょう。政府や党内の問題についても、国家監察委員会と党中央規律検査委員会があれば足りる、自分たちの問題は自分たちで探す、外部から指摘してもらうには及ばないというわけです。
「習近平への不満が爆発寸前」はウソである
──そうした習近平の姿勢は、実は中国の社会ではかなり「評価」されています。この点は日本人が知らないところで「習近平への不満が爆発寸前」みたいな煽りが多いですが、実際は違う。
王:習近平は王岐山と組んで党中央規律委員会を動かし、(汚職の摘発を理由に)高官でも平気で捕まえました。党幹部の大宴会や公私混同など、多くの人が問題を認識していても解決が不可能だと思っていた問題を、習近平は解決してしまった。
また、習近平時代になって行政サービスの水準がすごく上がったのも間違いありません。これは私の感覚でもそうで、窓口の対応が目に見えて良くなった。海外の人はまずわからない点ですが、中国国内の一般的な民衆の中国共産党政治に対する信頼度が非常に高くなった。これは習近平体制のもとで進んだことです。
──大多数の中国の庶民は、現在の習近平体制下で中国が「良くなった」と考えています。では、習体制になってから不満を強めたのはどんな人たちですか。
王:汎エリート層、広い意味での知識人たちです。たとえば、まずは言論が封殺され批判ができなくなった言論人、次に報道が自由ではなくなったメディア人、3番目が弁護士でしょう。弁護士の感覚では、習近平体制のもとで中国の法の支配は後退しました。司法が独立せず党の意向に従属するなかでは、いかなる弁護をおこなっても判決になんら影響しません。
「人文系エリート」を叩いて庶民の人気を集める
──生きることはできても、仕事のやりがいがないのは困ります。
王:やはり悲惨なのはメディア人です。世論による監督も、正常な批判も禁じられている。もともとメディアはお金を稼ぎにくい業種なのに、仕事がつまらなくなっては、もうどうしようもありません。弁護士は習体制のなかで法の支配が後退しても、それでもお金は稼げますが、メディア人はしんどいですよ。
──ただ、習近平体制で困っているのは、いわゆる人文系のエリートだけ。大多数の一般の人からは、むしろ歓迎すらされかねません。
王:ええ。習近平は中国共産党のほかに(メディアや知識人など)いかなる勢力が権力を持つことも許さず、そうした対象は絶対に鎮圧します。ただ、他の分野については、できるだけ良き統治をやる。経済を発展させ、役所のサービスを向上させる。中国共産党は経済の面では「社会民主党」ですし、「人々の権利を守ってくれる」存在としての顔すらある。この複雑性が中国共産党なのです。