中国共産党の経済政策は非常に「右」(自由主義的)です。それによって中国は過去40年の経済的成功を果たしてきました。ただ、彼らは政治面では極めて「左」(マルクス・レーニン主義、スターリン主義的)です。つまり党以外のいかなる権力も認めない。このような特殊な政治体制は人類の歴史上に存在しません。
「中国人の98%が台湾武力侵攻を支持してしまう」理由
──習近平体制のもとでメディア管理が強化されたことは、庶民の考えにどのくらい影響を及ぼしていますか。
王:いわゆる「洗脳」は、実は強力なプロパガンダのみによるのではなく、情報を制限することでなされると感じています。その方法はふたつです。まずは情報の壁。人々が海外の情報を得られないようにしてしまい、国外から自国がどのように見られているのかをわからなくする。
──その結果、中国人の多くは、自国が国際社会から複雑な目で見られていることをまったく理解していませんね。
王:2番目の方法は、特定の情報だけを伝えることです。たとえば列車事故が起きたとすれば、「運転士が乗客の生命を救おうと殉職した」といった情報ばかりを伝え、他の情報(詳しい事故原因や背景など)は制限します。真実を伝える情報を大量に制限し、いっぽうで特定の情報だけを大量に流す。一般の人に対しては、これで十分に洗脳をおこなうことができます。
──加えて、近年の愛国主義的な風潮も心配です。
王:ええ。他の問題についてならば客観的で、こうした「洗脳」から距離を置ける人でも、たとえば台湾や新疆の問題については扇動されてしまいやすい。たとえば台湾について、武力による両岸統一を支持するかをアンケートしたとすれば、おそらく現代の中国人の98%は武力行使に賛成するでしょう。たとえ、見識が広いタイプで良質な教育を受けている人でも、こうした問題には冷静さを失います。
すると、中国国内での言論はますます難しくなります。台湾や新疆の問題について冷静な意見を口にすれば、国賊だ売国奴だと吊し上げを受けることになる。ならば、常識的な判断をする人は、たとえ心に思うことがあっても、口を閉ざしてしまいます。
◆
王志安(Wang Zhi’an):1968年4⽉21⽇生まれ。調査報道ジャーナリスト。過去にCCTV(中国中央電視台)のキャスター・記者・解説員、北京大手紙『新京報』⾸席調査記者を歴任。かつては武漢大学政治学部の学生として天安門事件の学生デモにかかわるも卒業、⼤学講師を経て北京大学歴史学系で修士号(中国近代史)取得。9月9日発売の『文藝春秋』10月号にて、台湾問題やウクライナ取材など今回の記事とは別内容のインタビューを掲載。