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「俺ってすごい」とアピールせずにいられない…“マウンティングしたがる”男たちの生々しい欲求の正体とは

『無恥の恥』より#1

2022/07/08

source : 文春文庫

genre : ライフ, 読書, ライフスタイル, 娯楽, 芸能, 社会, メディア

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女性からも出世臭

 今は、男性達にとってはつらい時代です。「女は、男を立てるもの」と女性達が教わっていた時代は、「俺って凄い」というアピールを男性がしたなら、優しい女性が、

「わー、凄ーい!」

 などと、心地よい合いの手を入れてくれたはずです。そんな女性達が存在し続け、男性を甘やかし続けてきたからこそ、彼等はアピール行為の恥ずかしさに気づかずにきたのです。

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 しかし時代は変わり、女性は自分も「立て」てもらいたくなっています。そんな時に男性からアピールされても、せいぜい、

「そうなんだ……」

 と、スマホをいじりながらつぶやくくらい。明らかに、男性が期待している反応ではありません。

 今は、男性が下手に自らの優位性を誇示してしまうと、セクハラやパワハラにも問われかねなくなっています。本当に「恥ずかしい」ことになってしまう可能性もあるのであって、アピールもまた慎重にしなくてはならない。

 男も女も無い、という今の時代。……ではありますが、その差異は確実に存在し続けているのだと、私は思います。恥の感覚についても男女で異なるのであって、中でも特に異なるのが、こういった「凄さ」「偉さ」にまつわる部分なのではないでしょうか。

 多くの男性達は、何だかんだ言ったところで、周囲から「凄い」「偉い」と思ってもらいたいという希望を持っています。だからこそアピールをするのでしょうが、そこから「この人、偉いって思ってもらいたいんだな」という意図が丸見えになっていることは、気にしない模様。

 私の親世代では、そんな意図を十分に承知した上で、女性が男性を「立て」ていました。我が両親などもそうでしたが、妻が少しでも夫を立てることに失敗すると、

「俺に恥をかかせた」

 などと怒り出す夫もいたもの。そこで怒るということ自体、自分の力で立っていないことの証明となって恥ずかしくないのかしら。……などと私は子供として思ったものですが、その頃の男性には、女性から立たせてもらっていることが恥ずかしいという感覚は、なかったようなのです。

 対して女性の場合、男性のように「偉い」「凄い」と思ってもらいたいという感覚は薄いのではないか。……とも今までは思っていたのですが、しかし最近は、そうでもないような気がしてきました。高キャリアで高収入の女性が増えてきた昨今、彼女達からも非常に男っぽい出世臭が漂っているのを感じることがあるのです。また既にリタイア世代となった元キャリアウーマンからは、かつて偉かったおじいさんによる栄華自慢と同じ臭いが感じられることも……。

 ということは、その手のアピールは、何も男性特有の行為ではないのでしょう。今までは、仕事の世界に進出している割合が少なかったので、マウンティング遊びで満足していた女性達。しかし仕事という土俵に立って成功すると(本物の土俵には入れませんが)、やはり「偉い」「凄い」と、言ってもらいたくなるのです。

 女性の出世臭を嗅いだ時、加齢臭は中高年男性特有のものだと思って安心していたら、

「女性でも臭う人、いますよ」

 と言われた時のような、そこはかとないショックを受けた私。やっぱり既に、男だからとか女だからといった差異など消滅しているのかもしれず、自分もその手の臭いを漂わせないようにせいぜい気をつけなくては、と思うのでした。

無恥の恥 (文春文庫 さ 29-9)

酒井 順子

文藝春秋

2022年7月6日 発売

「俺ってすごい」とアピールせずにいられない…“マウンティングしたがる”男たちの生々しい欲求の正体とは

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