昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

合理的と論理的は違うのです

金子 2点句の「軒先に大根干して陽を誘う」はどうでしょう。

ビナード 大根を干す本来の目的とは別に、陽を誘う効果もあると詠んだところに惹かれました。

ヴルピッタ 大根がカーテンみたいになって太陽を誘っているという発想は大成功でしょう。この句を選びながら作者の感性を羨ましいと思いました。大根で俳句を作るのは難しかった。

©iStock.com

ピーター この短さに言葉と発想を組み込んでいく難しさですね。先日、松尾芭蕉の「夏草や兵どもが夢のあと」のハンガリー語訳を読んだんです。だけどそれは「古戦場に点る春の灯り/12万もの戦士の/走り去る夢の様な人生から/残ったのはこればかり」と長い説明になっていた。

ピーター・フランクル(数学者、大道芸人・ハンガリー代表)

金子 アメリカの人と句会やった時は、彼ら短く作っていましたよ。あれは英語ではなくて口語的なアメリカ語とでもいう言葉なのかもしれませんが。

ヴルピッタ 私は短歌の講師もしているんですが、短歌の場合字数が足りなくて「なり」や「あり」などで調子を整えることがある。しかし、俳句は言葉をそぎ落とす。

金子 合理的というかね、そういうところがあります。だから数学者にとって俳句は取り組みやすいんじゃないですか?

ピーター いえ、あくまで論理的な思考をするので、感情よりも結論を出そうとしてしまう。合理的と論理的は違うのです。

金子 なるほどなあ。

「桜島」で大根を言い表す高等テクニック

金子 では同じ2点句で「大声で抱きあげられて桜島」。

ヴルピッタ 大根にもいろんな言い方があることがこの「桜島」に表れています。

ピーター 桜島というのは桜島大根のことですね。

金子 そうです。他にも青首、練馬、三浦、聖護院。古くは「おおね」、鎌倉時代あたりでは「清白」、今は「だいこ」とも言います。畑から抜くさまを言う「大根引き」も季語。

金子兜太(俳人・日本代表)

ピーター すずしろは七草だから春の季語にならないんですか。

金子 大根としてのすずしろなら冬、七草としてのすずしろなら春なんです。

ウイッキー 大根だけでそんなに言葉のバリエーションがあるなんて豊かですね。大根足しか知らなかった私は恥ずかしい(笑)。