「湯畑はたく大根」ってなんだろう?
金子 1点句に触れていきましょう。まず「湯上りに鰤大根を北の旅」。ビナード選だ。
ビナード 鮮やかな発見はないけど、ノスタルジーがある。
楊 鰤大根て日本海のほうの料理でしょ。北の旅と言える?
ビナード 北陸だから大丈夫。
金子 さっきの汗と涙といい、楊さんは実証的だね。この句は『歳時記』で鰤大根の例句になっているような類型的な句なんだな。それで私は取れなかったんです。「雪けむり湯畑はたく大根かな」。これもビナード選。
ビナード 大根をたたいているんじゃなくて、大根がたたいているのか……どういうことだろう。なんでこの句を取ったんだろうな。
ウイッキー 女性の脚が温泉をパタパタやっているんじゃないですか。
ビナード ああそういうことか!
金子 さすが大根足のウイッキーさんだ。私だけ選んだ句が2つあるんですが、まずは「初雪や大根の肩は冷えるかも」。よく育った大根が畑から肩を出している、そこに初雪が降っていると。素朴でいい句ですよ。たいへん叙情的だ。
ビナード 宗匠の今の解説を聞いて、私も取ればよかったと思いました。
ゾペティ 「かも」と言えばロマノさん。
ヴルピッタ ハハハ。
金子 ロマノかも、ってとこですな。それと「妻睨む大根作家のままかな」。我々だと「ままにかな」と「に」をつけるんですけどね、「ままかな」でも分かります。
ビナード いわゆる作家はこの場に楊さんとゾペティさんだけ。それで妻に睨まれるとしたら……。
ゾペティ バレたか。
金子 楊さん選「人参に囁きかけて紅白に」。この紅白とは何だろう。
楊 人参と大根だと思いました。大根は直接出てこないけど、人参に囁いているのが想像できる。
金子 人参と並んで紅と白になっている……。ちょっとややこしいな。楊さん選はもう一つ。「手にさげる大根の葉にくすぐられ」。
楊 ぴんとくる風景ですよね。スカートはいてたりすると、手提げからはみ出している葉っぱに足をくすぐられる。主婦っぽい感覚の句ですね。
大根味のキスっていやですねえ
金子 点数が入らなかった句にも触れましょう。まずは「キス奪ひ大根の味愛しいぞ」。
ビナード 相手の唇に大根の味がついていて、いいなあっていうことだよね。
楊 恋は冷めるよね。なのになんで愛しいの? 大根味のキスなんていや。
ヴルピッタ いやですねえ。
ビナード ま、物好きなんだな。あとで作者の弁明を聞くのが楽しみ。
金子 「だいこんのセール目立てる商店街」も得点なし。
ヴルピッタ 大根のセールってあまり聞いたことがないな。商店街のセールの声が際立つとか、大根の白さが目立つなら分かるんですが……。
金子 「だいこんの白さ目立てる商店街」ならよかったですね。