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持ちつ持たれつの中で育まれた恥の感覚

小林 その土地の伝統や風習にのっとって、ということですよね。日本人の恥の感覚って、小さな島国の中で、持ちつ持たれつ、人の立場を思いやりながら暮らしてきた中で育まれてきた部分もあったんでしょうね。

酒井 生きる知恵でもあったのかなと思います。他人から見てどうなんだ、って自分に問いかけながら自分の居場所でちんまり生きていくという意識は、広大な原野で生きている人たちとは違いますよね。最近は日本人の恥の感覚も大きく変わって、昔の親は謙遜のあまり自分の子どもを「豚児」呼ばわりしていたのが、今ではSNSで「ウチの王子」「姫」と、堂々と愛でています。でも、昔の人も「豚児」という言葉に、たっぷりの愛情を込めていたんですよね。わかりにくいけど。

小林 愛情はありつつも、含羞があった。

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酒井 さっき、舞台はお客さんが目の前にいるから苦手とおっしゃってましたが、今年の秋には舞台のお仕事が控えているんですよね(『阿修羅のごとく』)。あえて舞台上から顔が見えるところに座って、「がんばれ」って口パクしてみようかしら(笑)。

小林 なんと……。そしたら、私も開き直って酒井さんに目線をバチバチ送ってやる(笑)。

酒井 舞台上と客席で、互いに密かにテレ合いましょう……(笑)。舞台、楽しみにしています!

無恥の恥 (文春文庫 さ 29-9)

酒井 順子

文藝春秋

2022年7月6日 発売