「“夜の案内人”なら任せて」
そう微笑むのは、ミッツ・マングローブさん。東京・有楽町のコニカミノルタプラネタリアTOKYOにて上映中のプラネタリウム番組『星と怖い神話 怖い絵×プラネタリウム』で、MCを務めている。
全知全能の神ゼウスをはじめ、神々が愛憎劇を繰り広げるギリシャ神話。はくちょう座やさそり座など星座の由来となり、また名画にも数多く描かれてきた。しかし、これらの神話は星座や絵の美しさからは想像がつかない、恐ろしい物語を秘めていた――。
そんなギリシャ神話にまつわるエピソードを星と絵画から読み解くのが、今回の番組。解説と監修をベストセラー「怖い絵」シリーズの著者として知られるドイツ文学者の中野京子さんが担当している。
ミッツさんがMCに選ばれた理由は“声”。しっとりとして落ち着きのある声は、プラネタリウムにぴったりだからだという。そんなミッツさんが所属する音楽ユニット「星屑スキャット」は、今年CDデビュー10周年を迎えた。
「星屑、という字面と響きが好きで。屑っていう言葉が特に(笑)。でも、星は確かに歌謡曲と相性がいいかもしれません。『さそり座の女』『乙女座 宮』『南十字星を撃て』などの名曲も多いし、例えば歌詞に〈星が消えた〉と書けば朝になったことを粋に表現できる。月と違って大小数えきれないほどたくさんあるというところにも、なんとなく意味を託したくなるんでしょうね」
だが、プラネタリウムにはあまり縁がなかった。
「学校行事で訪れたのが最後です。実は、神話も絵画もまったく詳しくなくて……。星占いに出てくる星座すら全部は言えないくらい。どの絵も“実物”は見てるんですけど」
小中学校時代をロンドンで過ごしたミッツさんは、親に連れられてヨーロッパ各国の美術館をめぐっている。今回取り上げられる怖い絵のひとつ、ルネサンス期に描かれた「ヴィーナスの誕生」も、イタリアの美術館で見た。
裸体のヴィーナスが大きな貝殻の上に乗って岸辺に漂いついたシーンを描いたこの絵はボッティチェリの代表作。ここには“父殺し”のエピソードが隠されている。しかも女神自身は、切り取られた父神の局部が海に落ちた際に湧いた泡から生まれたという。
「そんな話はじめて知りました。すごく不思議。神話って要するに作り話なんですよね? 昔の人っておかしなことを考えるんだなあって(笑)」
他にも「天の川の起源」「怒れるメディア」など6つの絵画が登場、それらにまつわる星座と神話が紹介される。
「子どものときは“お勉強”っていう感じで敬遠していた星や絵画の話も、こういう切り口なら結構面白く聞けるとわかって、案内人ながら楽しみました。皆さんも、ぜひゾクゾクしに来てくださいね」
このプラネタリウムは、壁や床にまで映像が投映される日本で唯一の施設。夜空も絵画も通常肉眼で見る以上の没入感を体験できる。
ミッツさんの声が誘う、最新プラネタリウム。この機会に訪れてみては。
1975年、横浜市生まれ。10~20代をロンドンで過ごす。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。09年頃からテレビでも活躍。11年にソロで、12年には音楽ユニット「星屑スキャット」でもCDデビュー。主な出演番組に、「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」など。
INFORMATION
プラネタリウム『星と怖い神話』
上映中
https://planetarium.konicaminolta.jp/program/kowai_shinwa/