そして次に来るのは……
実際に大企業の一部でしか給料は上がらない。年収が上がらなければ、貯蓄もままならない。定年後の老後は危機的な状況に陥る日本人が続出するだろう。国は2004年に「年金100年安心プラン」などと言っていた旗印をいつのまにかおろしてしまい、企業に対して65歳定年をさらに延長して70歳、いや75歳まで働いてもらいましょう、などといった「お願い」を口にし始めた。年金が払えないからもっと働く「お願い」を始めたのだ。
そして次なる「お願い」は参議院議員選挙が終了したこれからの「黄金の3年」の間に確実にやってくる。増税の「お願い」だ。増税の手法はいろいろあるが、実は最も行いやすいのが国民全体から広く薄くいただく間接税、つまり消費税の増税だ。岸田首相は首相就任当初は金融所得課税を唱え、自民党内部からも猛烈な批判を浴び、あわてて取り下げた。特定の層に負担を求めようとすると、すでに利権社会となっている日本では調整が難しいのだ。ならば、広く国民全体に「お願い」するのが吉だ。きっと我慢強くてまじめな国民はこの「お願い」に「仕方がない」からとか「ほかに選択肢がない」とか言って従ってくれるだろう。
選挙などには全く関心を示さない国民は、国や自治体、公共機関から発せられる「お願い」に実に忠実である。おそらく現状では多くの国民があまり困っていないからなのだ。だが、これからの日本を取りまく環境は激変する。比較的裕福だった団塊をはじめとする昭和世代が退場していくのにつれて、年金だけでは生活できない国民は増える。収入が伸びない中でのインフレは現役世代の生活を直撃する。やがて上がらざるを得ない金利はバカ高いマンションを夫婦ダブルローンで買ってしまった世帯を苦しめる。
「考えない」日本人の行く末は
「お願い」をボーっと聞いて、「考える」ことをしないできた日本人は、これからの環境変化の激しさに呆然とすることだろう。今の幸せはいつまでも続くとは限らないのだ。
ロンドンで地下鉄を利用すると、こうした「お願い」の類のアナウンスはほとんどない。だが駅構内にはわかりやすく注意事項が掲載されているだけでなくこんな警告ポスターが貼ってある。
「ロンドン市内の地下鉄駅では昨年3000人が事故を起こし、そのうち152人が重大なけがをしました」
これだけでエスカレーターに乗るときは注意しなければ、と自然に考えることができるのだ。
なんでも国、お上の指示に従っていればよかった「考えない」日本人。コロナだってこれだけの情報が得られたのだから、そろそろ自分で判断してマスクをはずす、はずさないを決めればよいのではないか。みんなが同じ行動をいつまでも続けていることに日本の未来はないのだ。