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“お願い蔓延社会”でひそかに増殖する「考えない日本人」の行く末

2022/07/12
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続々と登場する新しい「お願い」

 この夏はさらに新しい「お願い」の登場だ。猛暑による節電の「お願い」だ。以前のように冷房温度28度のような規制値こそ設けてはいないようだが、エアコンの温度は控えめに。電気はなるべく使わないように。ここが出番の都知事の小池百合子さんは「冷蔵庫内の温度を上げて節電しましょう」ときた。これもご理解、ご協力しなければならなそうだ。

 天気予報もおせっかいだ。感染症対策に加え、熱中症対策、水分補給、日差しを避ける日傘の携行、洗濯物の乾きやすさ、服装に至るまで思いつく限りの指示ではないただの「お願い」「アドバイス」を繰り返す。こんなことは自分で考えればよい内容ばかりだ。今後も猛暑が続くと、すでにいくつかの自治体では始まっているが、今度は節水の「お願い」が連呼されるだろう。

 そういえば先週までは参議院議員選挙で選挙カーからの「お願い」もあった。国は西側諸国の一員としてロシア制裁を「お願い」され、これに協力している。そしてそのお願いを岸田首相はありがたくも他国にまで出向いて、他国にも加わるように「お願い」を始めた。街を歩くと炎天下の中、自治体の職員さんとおぼしき人たちが、マイナンバーカード発行の「お願い」を連呼している。カードの使い勝手が良いと思えば、連呼しなくても登録は増えるだろう。

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値上げへの「ご理解とご協力」

 経済にも「お願い」が蔓延りだした。物の値上がりだ。企業は円安とウクライナ紛争に端を発した原材料の値上がりに耐え切れず、製品の値上げに雪崩を打ち始めた。テレビやラジオ番組で食料品会社、飲料会社の社長などが苦渋の表情を浮かべながら値上げの「お願い」をはじめた。値上げをなんで「ご理解」「ご協力」いただかなければならないのだろうか。

 電気料金、ガス料金、ガソリン代も、公共交通機関の料金も全部値上げの「お願い」が今後も続いていくことだろう。ご理解、ご協力してもらわなければならないのだ。

 我々国民の生活はどんどん苦しくなる一方だ。円安は輸出型産業を潤す。輸入型産業は打撃をこうむるが差し引きすれば、現状の円安はトクなんだという理屈が展開されている。だが輸出で潤う自動車などの産業は、ほとんどを海外で儲けていて、儲けの多くは日本には還流されず海外にとどまっているから、日本国内が豊かになどならないのだ。