亡くなった親の財産を相続する際、注意すべきは「家族間のトラブル」だ。時には長年一緒に住んできた母と娘が決裂することも。
亡き父の財産が招いた相続トラブルを、ジャーナリストの坂田拓也氏の新書『国税OBだけが知っている失敗しない相続』より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
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相続は「生前の対策」が8割
相続税の課税ラインが引き下げられ課税対象者が拡がったことで、相続税への関心が高まり、生前贈与などの税対策に着手する人が増えてきた。しかし相続に精通する国税OBの税理士たちは、「家族対策が重要」と口を揃える。
片山敏彦税理士はこう強調する。
「『家族対策』の必要性に気づいている人はまだ少ない。親は、自分が亡くなった後に子供たちが揉めることを想像できないからです。しかし親に財産があれば、子供たちは争うもの。財産がある人は、元気なうちに子供たちと話し合うことを勧めます」
相続が発生した時に相続争いが起きると解決は大変難しい。片山税理士は、「相続の成否は、生前の対策8割決まります」と強調する。
遺言書を見て「長女の怒り」が爆発
秋山清成税理士はこう強調する。
「長年見てきて、相続は『感情』に影響されると断言できます。『兄貴は何かとヒイキされてきた』と弟が密かに思っていたり、『両親は妹ばかり可愛がった』と兄が思っていたり。相続の話になった途端、積年の恨みつらみが沸き上がり、譲れなくなる。そのため、相続は法定通りにも理屈通りにも進まないのです」
相続を原因として、長年一緒に住んできた母親と娘が決裂することもある。
70代後半の両親が住む都内の持ち家に、離婚した40代後半の長女が子供1人を連れて帰り、一緒に暮らしていた。
2年前に父親が死亡。その時初めて、父親が自筆の遺言書を遺していたことが分かった。
遺言書は、母親と長女に宛てて「財産はすべて妻に渡す」と書かれ、「付言」として、長女に向けて「母さんの面倒を頼む」と添えられていた。
しかしこの遺言書には押印が無かった。