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「子供同士の争いはもっと激しくなる場合が少なくありません。親が生きている時は兄弟姉妹が仲良くできていても、親が亡くなった途端に重しがなくなり、子供たちが勝手なことを言い出すからです。親と離れて暮らす人が増え、親とも兄弟姉妹の間でもコミュニケーションが減っていることが、争いが増える一因だと思います」(同)

相続人の夫や妻が口を出すことも

 加えて、相続に詳しい税理士は、相続は「相続人だけの問題で終わらない」と口を揃える。相続人にはそれぞれ妻(夫)や子供がいる。相続人同士で話し合っている時に、妻(夫)や子供が口を挟んできてこじれることは珍しくない。

 東京・渋谷区に住む80代の母親が2019年に亡くなった。地価高騰の中、自宅の評価額は1億2000万円まで上がっていた一方で、預貯金は500万円ほどしかなかった。

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 相続人は長男・次男・母親と同居していた長女の3人。母親の相続財産は1億2500万円になるため、子供3人が法定通り均等に相続すれば1人約4200万円になる。

 長女は母親と住んでいた自宅に愛着があり、自宅を相続して住み続けることを希望した。

 相続人3人は、阿保秋声税理士の事務所に集まって話し合いをはじめた。

 長女は自宅を相続するために、3人分の相続税700万円を負担することを前提に、兄2人にそれぞれ1000万円支払うことを提案した。

 阿保税理士が振り返る。

「兄妹の仲は良く、妹の提案に対して兄2人は笑いながら『そんなもんかなぁ』と半ば了承した感じでした。しかし次に来た時、兄2人に笑顔はなく、法定通り1人4000万円を要求しました。話し合いを続け、妹は兄2人に支払う金額を上積みしましたが、兄2人は要求額をほとんど下げず、折り合えませんでした。その要求は兄たちの気持ちではなく、それぞれの妻の意向が強かったのです」

 妹は、自宅を相続すれば現金は得られず、相続税と兄たちへの支払いで相当な負担になる。しかし相続した後、妹が自宅を売れば1億2000万円以上が手に入る。負担分を差し引いても1億円近くの現金を手にすることになる。兄2人は「妹が住みたいのなら……」と許容できても、妻たちから見れば納得できる話ではなかった。

 結局、話し合いはまとまらないまま相続税の申告期限(死後10カ月)が来たため、妹は諦めて自宅を売ることになった。