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隠し子に父親の死を知らせなかった結果…

 母親が亡くなった時、長男と次男が杉江税理士に相談に来た。

 その数年前に父親が亡くなった時、父親に隠し子が2人いることを知った母親が気絶寸前になり、隠し子に接触するのさえ嫌がった。相続税はかからなかったため、父親の死を隠し子に知らせず、貯金を分け、実家の名義は父親のまま母親が住んでいた。

 長男も次男も自分で家を建てていたため、母親が亡くなった時に実家は売ることになった。そのために隠し子の同意が必要になった。

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 次男が代表して、長崎に住む2人の隠し子(姉と弟)に会いに行った。

 2人は年配者だった。父親が隠し子を2人作った後、しばらくして母親と結婚して長男と次男が生まれていた。

 次男は最初に弟と会った。弟は父親のことを覚えておらず、事情を理解してくれた。しかし「姉が何と言うか分かりませんが……」と付け加えた。

 姉が生まれてしばらくの間、父親は姉に会っていた。姉には父親の記憶があり、そして父親は自分達を捨てたと思っていた。次男が姉に会って話すと、姉は感情を害して話がこじれるかに思われた。しかし最後には、姉の夫(大学教授)がなだめてくれて数百万円を渡すことで解決できた。姉が強硬に法定相続を要求して来れば困ったことになっていた。

 杉江税理士が振り返る。

「こうした時は誠意を示すしかありません。手紙の文面を一緒に考えて事前に送りましたし、次男がわざわざ長崎まで会いに行ったのがよかったと思います」

苦労する遺言書の作成

 近年、相続争いを避けるために遺言書の作成がすすめられるようになり、遺言書を遺す人が増えてきたという。

 遺言書には、公証人役場で作成する「公正証書遺言」と、自分で書いて保管しておく「自筆証書遺言」がある。後者は押印を忘れていたり、日付を間違えていたりして、要件を満たさず無効になることが意外に多い。

「公証人役場で作成すればこうしたミスは回避できますが、公正証書遺言は作成手数料がかかります。その上、遺言書の内容を変更する人が多く、そのたびに手間と手数料がかかってしまう。民法が改正され、2020年7月10日から自筆証書遺言を法務局が預かってくれることになりました。法務局は、預かる際に様式を確認してくれるため、自分で遺言書を書いた時は法務局へ預けることをすすめます」(杉江税理士)