思いがけない「申告漏れ」
調査官が指摘した申告漏れの1つは、長女には思いがけないものだった。
長男だった父親は5人の弟妹に財産分与を考え、5人を受け取り人にしてそれぞれ200万円の生命保険を掛けていた。男性が亡くなった後、弟妹5人は保険金を受け取った。
実は、男性が掛けていた生命保険は男性の財産として加算される。5人を受け取り人とした生命保険金1000万円を加えると財産は課税ラインを超えるため、妻と長女は相続税を申告しなければならなかったのだ。妻と長女は保険金を受け取っていないが、相続税が課されることになった。
長女が振り返る。
「調査官が2回来た後、税務署へ行って調査官に言われたままの金額で修正申告しました。1時間程度かかり、母は約10万円、私は約45万円を納めました」
税務調査は大きな額の申告漏れに入ると思われがちだが、これだけ少額の追徴課税案件でも税務調査が入るのだ。
生命保険を巡る愛憎劇
生命保険に関しては、次のような話もある。
ある日、岡田俊明税理士の事務所に税務署員が電話をかけてきた。岡田税理士が担当して相続税を申告した相続人のことだった。
「〇〇さん(相続人)に税務調査に入ります」
「何かありましたか?」
「生命保険(の申告)が漏れています」
「××生命保険で出しましたよ」
「それとは別の生命保険があるのです……」
「え?」
相続人は70代の女性だった。岡田税理士は相続税の申告に当たり、女性にヒアリングして通帳等も確認し、受け取った生命保険金を申告していた。
しかし、生命保険金の受け取りはもう1つあった。
女性は認知症になりかけていた。面倒を看ていた女性の親族が介護費用の捻出を心配し、生命保険の1つの受取人口座を密かに変更、岡田税理士には隠していたのだ。