「鉄の女」サッチャーとはぶつかった
抗えない運命の波に大きな不安を抱えていた女王だったが、ひとたび君主になるとどうだろう。「女王は権利でなく義務」と捉えるほど潔く運命を受け入れ、使命感と責任感を持って責務を遂行している。国内のロイヤル人気ランキングでは長くトップをひた走り、チャールズ皇太子はもとよりウィリアム王子でさえ寄せ付けない。国外からも信頼と尊敬を集め、「世界で最も有名な女性」と称賛される。逆に、英王室の人気は、エリザベス女王への敬愛の情が支えているといえそうだ。
では、ここまで盤石な女王の地位はいかにして築き上げられたのか。
その一端が「女王と話をすると、頭が整理される」と打ち明けたキャメロン元首相のコメントに見られる。
女王は毎週、首相から「私の政府」について施政方針や情勢などの報告を受ける。これまで、チャーチルから現在のジョンソンまで、計14人の首相と向き合ってきた。「鉄の女」と言われたサッチャーとは、特に旧植民地諸国に対する姿勢のちがいなどからぶつかることもあったものの、毎週の対話を重ねることで国内外の動向について膨大な知識を蓄えてきたのだ。
イギリスでは国民が議会を通じて統治権を持ち、その君主制は「君臨すれども統治せず」と謳われる。政治に直接関与することなく、しかし常に動向を把握する女王が、国を牽引するリーダーの頼もしい相談役であることは明らかだ。
国内への目配りだけでなく、その外交手腕にも光るものがある。90歳近くまでに歴訪した国は、英王室史上最多の100カ国以上を数えるが、なかでも歴史的に意義深いとされるのが、隣国アイルランド共和国への公式訪問だ。