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参加者が息を呑んだ「予想外のスピーチ」

「近くて遠い国」と言われるイギリスとアイルランドの歴史は複雑だ。植民地化による強い弾圧と抵抗運動を繰り返してきた。

 両国の関係改善を目指す女王は、かねてからアイルランド訪問を切望していた。2011年にようやく叶ったとき、英君主としてはじつに100年ぶりの訪問となったが、女王の訪問に反対するデモやダブリン市内での爆発物騒動などを受けた現地は厳戒態勢を強いられていた。

 同行したキャメロン元首相は、晩餐会のことを鮮明に覚えていると語る。緊迫した雰囲気のなか、女王はアイルランドの国花シャムロックをかたどった花びらを縫い付けたドレスに身を包み、スピーチを始めた。

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エリザベス女王 ©時事通信社

「実に素晴らしい瞬間だった」

「大統領、そしてみなさん」

 それは、イギリス植民地時代に英語に取って代わられたアイルランドの第一公用語、ゲール語だったのである。予想だにしないスピーチに、参加者が思わず息を飲む気配が伝わってきた。「実に素晴らしい瞬間だった」と元首相は振り返る。

 女王にとって「巡礼の旅」とされるこの訪問後、両国のしこりは次第に溶けていったという。和解への突破口を探り果敢に取り組む女王の姿は、多くの支持を得ている。

 確かなソフト外交の腕を持つ女王だが、一度だけ海外の要人を批判したことがあった。