ブローカーの話を聞いた女性はなぜか人身売買に同意し、3人は赤ちゃんを売る旅に出る。
ところが、いざ赤ちゃんを手放そうというときになると、赤ちゃんと引き換えに金を得ることを目論んでいたはずの母親が、赤ちゃんの容姿にケチをつけて値踏みする養親に対し「うちの子の命に値段をつけるのか」と怒鳴り声をあげる。ブローカーたちは客と女性の間に挟まりオロオロしながらも女性の側についてしまう。
赤ちゃんにとってよい養親でないとわかると敵意をむき出しに吠えまくる女性の姿に押されて、ブローカーたちは儲けを度外視して赤ちゃんの養親を探し始める。
それぞれの理由は物語が進むにつれて明らかになる。売春で日々をしのいでいた女性は、ある理由により、自分が育てるよりも両親が揃っていて経済的に不自由のない家庭で育つことの方が赤ちゃんにとって幸せだと考えていた。
他方、旅の道連れとなったブローカー二人組のうち中年男性の方は、借金取りに追われ妻子と別れた寂しさを、血の繋がらない赤ん坊に愛情を注ぐことで満たしていた。
若い男性の方は自分自身が赤ちゃんポストに預けいれられた捨て子だったため、母を恨んでいた。それが、若い母親の屈折した愛情を目の当たりにし、自分を捨てたと思っていた母親についても違う見方を獲得していく。それは、母は自分を愛していたから赤ちゃんポストに預けたのかもしれないという捉え方だ。
映画には3人を遠くから見つめる第3者の視点も組み込まれていた。人身売買の現場を捕らえようと3人を追う女性警察官の視点だ。「赤ちゃんを捨てるなら産まなければいい」と若い母親を軽蔑し憎んでいた警官は、3人を追跡していくうちに、赤ちゃんポストに預け入れたのは赤ちゃんを愛していたからだと知っていくことになる。
そして女性警官は「女の子は男の子より値段が安い」という赤ちゃんの人身売買の相場に、男性とは非対称に扱われてきた自分たちの悔しさを重ねて憤る。女性警官の怒りは、赤ちゃんポストに預け入れる女性の背景が、虐げられてきた女性たちの問題と通じていることを指し示す。
映画のストーリーと当事者の人生が重なる
スクリーンに映し出されたストーリーを追いながら、取材で出会うことのできた二人の女性が頭に浮かんだ。
一人目は、ゆりかごに赤ちゃんを預け入れたものの扉の前に立ち尽くしたという大学生。中絶可能な時期が過ぎ、覚悟した大学生が一人で出産しゆりかごに預け入れようと決心したのは、自分を虐待した母に赤ちゃんの存在が知られれば、赤ちゃんにも虐待の危害が及ぶと考えたためだった。赤ちゃんを守り、安全に育ってほしいと願っての苦しい選択だった。