「親子が一緒に暮らす」以外の可能性
ラストシーンは刑期を終えた女性がさまざまな人の助けを得ながら赤ちゃんとの再会を果たすことを予感させる。親子はすぐに一緒に暮らす訳でもなさそうだ。だが、実はその描写は現実に最も即している。
映画の外の現実に立ち返ると、日本ではこれまでに161人の赤ちゃんが「こうのとりのゆりかご」に預け入れられ、そのうちの8割については児童相談所の社会調査により親が判明し、赤ちゃんは親の居住地の児相に移管されている。児童虐待に関する国の方針「家族の再統合」(一時保護された子どもを再び親もとに返すこと)に沿うものだ。
赤ちゃんはその後、移管先の児相を経由して特別養子縁組、里親委託、親もとに返されるなどの措置が取られているが、一人一人の赤ちゃんが現在どのような状況にあるか、調査は行われていない。
終戦直後から数十年の間は児童養護施設の子どものほとんどが戦争孤児だったが、現在は親から虐待を受けた子どもがほとんどだ。そして、ここでも厚労省の主方針は親もとに子どもを返す「家族の再統合」だが、親もとに返されたあと、再びの虐待に傷つく子どもたちは少なくないという。
「距離を取りながら親と子の関係性を再び築くことに意味がある。一緒に暮らすことだけを目標にするのは現実的ではない」と、ある児童養護施設の責任者が話してくれたことを思い出した。女性に一人で育てる責任を押し付けないエンディングは、血縁以外の大人たちが関わる関係性の可能性を指し示している。
彼女たちはすぐ近くにいる
映画を観終わって、再び内密出産について考えた。
内密出産の初めてのケースとなった女性は、赤ちゃんを心から大切に思っているからこそ、自分では育てられない、自分よりもっと赤ちゃんを大切に育ててくれる養親のもとで幸せになることを願って特別養子縁組を希望したという。
大切に思っているからこそ他者に託したい。そんな内密出産を選ばざるを得ない女性の背景を理解しようという思いが私たちにはどれほどあるだろうか。
慈恵病院の調査によると、ゆりかごに預け入れる女性の8~9割は被虐体験または発達症が背景にありながら、周囲に見過ごされてきた人たちだ。
そんな子ども時代に大切にされなかった女性たちが、産む性であるがために困難に直面し、孤立してしまう。
目を凝らさない限り見えない彼女たちの存在を凝縮した「ベイビー・ブローカー」。彼女たちは決して遠い存在ではなく、見ようと思えばすぐ近くにいる。