カンボジアで暮らしたことのあるアジア経済研究所の初鹿野直美氏。珍食グルメに対して、比較的貪欲でオープンであった彼女も、さすがにたじろいだ昆虫料理があるという……。

 彼女が食した「アリ料理」とは、一体どんなものだったのか? 世界各地の美味・珍味・ゲテモノ食を取り上げた新書『世界珍食紀行』より一部抜粋してお届けする。(全3回の2回目/#1#3を読む)

「きょうのご飯は特別よ」笑顔のメイドに出された料理は…。写真はイメージです ©iStock.com

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 10年くらい前の私は、珍食グルメに対して比較的貪欲でオープンだった。なぜなら、「気持ち悪い」と言って拒絶することへの反発心があったからだ。その背後に、多感な高校生のころの出来事があった。

 ある夏の日、同級生のとてもかわいい女子が近くにいたセミを気持ち悪がってその存在を全否定している姿を、周りの人びとが温かい目で見守っていた場面に居合わせた。その少し前に、私がゴキブリを気持ち悪がったところ、男子たちに白い目を向けられた(ように感じられた)事態とのあまりの違いに、私は傷ついた。その結果、何かを“こじらせた”私は「私は気持ち悪いなんて言わないわ」とばかりに、ほぼヤケになってさまざまなものを食べてきた。

 私がフィールドにしているカンボジアでも、拒絶せずに食べてから判断するということを実践してきたつもりだ。そのなかで、私の日本の友人の大半が「気持ち悪い」という反応をするであろう3つの珍食グルメについて紹介したい。

タランチュラだって拒絶せず食す

 プノンペンから車で小一時間ほどのところにあるスクンという町はタランチュラ(蜘蛛、現地ではアーピンと呼ばれる)で有名である。付近に停まる観光バスには、売り子たちがこぞって蜘蛛を売りにくる。2007年ごろ、一緒にドライブ旅行を楽しんでいた現地の友人の都会育ちの妹(当時中学生)が「食べたい」とねだるものだから、一緒に食べてみた。悪くはなかったけれど、これを好きだという人たちがもっとも美味しい部分だと評する、蜘蛛のお尻の丸い部分のモサモサとした食感がどうにも好きになれなかった。

 もういちど食べる機会があったが、やはり理解できず、その後いちども食べていない。ちなみに、タランチュラについては近年乱獲で数が減っており、名物のタランチュラ料理が消滅するのではないかとの報道もある(「名物タランチュラ料理が消える!? 森林伐採と乱獲で カンボジア」AFPBB News、2018年4月22日)。