パサパサのサンドイッチやねとねとのソーセージ、ぶよぶよのパスタは日常茶飯事……。2000年代初頭にイギリスに渡ったアジア経済研究所の熊谷聡氏。多くのマズメシに困惑する彼が見つけた「イギリス料理が不味い理由」とは?
世界各地の美味・珍味・ゲテモノ食を取り上げた新書『世界珍食紀行』より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/#1、#2を読む)
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味がない、食感が悪い
2000年代初頭。渡英するにあたって、先達から繰り返し聞かされたのは「イギリスの食事は不味い」という定番の忠告であった。それも「不味いと聞いていたが、実際はそれほどでも」という話も聞かない徹底ぶりだ。ただ、食に対するこだわりがほとんどないと自負する私は、イギリスの食事でも実は平気なんじゃないかと楽観していた。
ロンドンでの最初の2週間は大学の寮に住んでいた。この間のイギリスの食事に対する印象は、楽観どおり「実際はそれほど不味くはないのでは?」というものだった。
まず、朝食は寮のイングリッシュ・ブレックファストで、パンに目玉焼き、ベーコンにベイクド・ビーンズといった感じで十分満足できるものだった。昼食は授業が詰まっていて時間がないのでチョコレートですませ、夕食はカフェでコーヒーとサンドイッチを買って食べるという毎日だった。
しかし、イギリスの食事に対する「実際はそれほど不味くはないのでは?」という楽観は、寮を出て3カ月もすると完全に覆くつがえることになる。私が寮で「仕方なく」食べていたイングリッシュ・ブレックファストとカフェのサンドイッチは、イギリス料理の最高峰であり、アフタヌーンティーを除けば、ほかの料理はほとんどすべてこれに劣ることが判明したのである。
イギリス料理、というよりイギリスにおける料理の不味さは、「味がない」ことと「食感が悪い」ことに還元される。中華料理ですらその傾向があり、ぬるい「湯(スープの意味ではなく)」にのびた麺が入っただけのものが出てきたりする。
パサパサのサンドイッチ、ねとねとのソーセージ、ぶよぶよのパスタは日常茶飯事で、怒って交換を要求している人もいない。これに加えて、軽い昼食でも1人10ポンドは下らないという物価の高さ(当時は1ポンド=200円超)が追い打ちをかけ、しだいに「ちょっと外食でも」という気は起きなくなった。