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2022/07/23

source : 文春新書

genre : ライフ, 歴史, グルメ,

店の淘汰の基準が味ではない

 外食の際、なんとなく雰囲気もよく、それなりに客もいる店にふらっと入るというごく普通の行動で、何度も痛い目に遭った。イギリスでは店の雰囲気や繁盛具合と、料理の味の良し悪しがまったく相関していないのだ。

 私は失敗を繰り返すうちに、「イギリスでは料理の味を基準とした店の淘汰が機能していない」という仮説にたどりついた。ポイントは「いかなる淘汰も機能していない」のではなく、「淘汰の基準が味ではない」という点だ。

 もし、淘汰がまったく機能していないとすれば店は潰れないから、イギリスのレストランは創業100年を超えるような老舗しにせだらけになっているはずである。また、長く店をやっていれば学習効果で料理の味も改善するだろう。しかし実際には、「われわれは1987年以来、長きにわたってインド料理を……」と掲げている店を目にするほど、淘汰自体は激しいのだ。

 なぜ料理の味と店の淘汰確率が無相関なのか? 答えはひとつ、客の味覚に問題があるとしか考えられない。客が料理の質に従って店を選ばない(選べない)ので、インテリアや食器のデザイン、雰囲気や謎のウンチクのようなもので店の生き残りが決まるのだ。実際、あるイギリスの雑誌で目にした「美味しいサンドイッチ・ランキング」では、私が地球上でもっとも素晴らしいと評価する、カフェ「PRET A MANGER」のサンドイッチが、スーパー「TESCO」の凡庸なサンドイッチに完敗していた。

まずいのは調理法?

 このとき、イギリス料理について発見したひとつの法則がある。それは、料理名が「調理法+素材」のものは大丈夫、というものだ。「ベイクド+ビーンズ」や「フライド+フィッシュ」などがそれにあたる。これはつまり、調理がワンステップを超えると途端に素材が不味くなるということを意味しており、イギリスにおける調理が、新鮮で豊かなイギリスの食材の味や食感を破壊するプロセスであるという悲しい現実に、心を痛めずにはいられなかった。

 名誉回復のために述べておく。それから20年の時が流れ、イギリスのレストランは格段に美味しくなった、と風の便りに聞いた。にわかには信じがたいが、なんでも、2012年のロンドン・オリンピックが契機となったらしい。なるほど、つまりは仮説どおりで客の問題であった。イギリスのレストランが進化するには、外国人観光客の味覚による淘汰が必要だったのだ。

世界珍食紀行 (文春新書)

山田 七絵

文藝春秋

2022年7月20日 発売

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