国の数だけ、食文化がある。タイの隣に位置するラオスで、カブトムシを食べることになったアジア経済研究所の山田紀彦氏。これまでコオロギ、バッタ、芋虫、幼虫など数々の昆虫を食してきた氏が、カブトムシだけは「もう食べなくてよい」と思ったワケとは?
世界各地の美味・珍味・ゲテモノ食を取り上げた新書『世界珍食紀行』より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
◆◆◆
コオロギはビールに最適なおつまみ
小学生のころ、毎年夏になると近所の雑木林によくカブトムシを捕りに行った。そして何匹もカブトムシを捕まえては虫かごに入れ、家に持って帰った。それから何十年がたち、いまでは息子が同じように夏になるとカブトムシを捕まえている。カブトムシは夏に捕まえ、飼育する昆虫であり、まさか自分が大人になりカブトムシを食べるとは夢にも思わなかった。大人になってからも、ラオスに来るまではカブトムシが食べ物だという認識はなかった。そう、カブトムシは食べ物だったのである。
ラオスの職場のお昼は、各自が家から持ってきたお弁当や、職場近くのお惣菜屋で買ってきた料理をテーブルの上に広げ、みんなで食べることが多い。ときにはテーブルを2つ並べて10人以上で食べることもある。各自がそれぞれのお弁当を食べるのではなく、持ち寄ったものをみんなでシェアする。
テーブルには、焼いた川魚、豚肉の炭火焼き、トウガラシたっぷりのパパイヤサラダ、高菜漬け、トマトやナスのディップソース、野菜のスープなど一般的なラオス料理が並び、ラオスの主食であるモチ米とともに食べる。通常、モチ米とおかずを手でつまみながら一緒に食べるため、テーブルに置かれたご飯とおかずにみんなの手が伸びていく。多くの場合、スープはとりわけずに大きなボウルに入れられ、各自がレンゲですくって飲む(レストランではとりわけることが多い)。はじめはそれに慣れなかったが、いまでは何も気にせずに飲めるようになった。
ラオスでは、お昼ご飯のお弁当、村での食事、飲み屋などで、ときおり昆虫食が出てくる。初めてラオスに赴任した2003年当時、最初に食べた昆虫はコオロギだった。