「親父にしてもらったことを自分が子どもたちにするという形で返していきたい」――虎のレジェンド・鳥谷敬は父親からどんなふう育てられ、そして5人の子どもたちにはどんな教育を施しているのか?
彼が野球、人生、自身の生き方などについて綴った新刊『明日、野球やめます 選択を正解に導くロジック』より一部抜粋してお届けする。(全3回の2回目/#1、#3を読む)
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父の教え
親父がサッカーをやっていた影響もあり、小さい頃から観戦するのもプレーするのも、実は野球よりサッカーのほうが好きだった。
平日は週3回の柔道に、週2回のサッカー、学校の部活はバスケットボール。野球が好きで好きでたまらない……という感じでは決してなかった。ただ、なぜか一番得意なのは野球だった。
野球をやめたいと思ったことも一度や二度ではない。左打ちに変えた中学生の頃は全然打てなくなり、野球が面白くなくなってしまった。ちょうどJリーグが発足して数年が経ち、サッカーが盛り上がっていた頃でもあったので、高校では野球をやめて、サッカーをしようかと迷っていたぐらいだ。
そんな自分が野球を続けた理由は、思いがけない親父の一言だった。
「高校はどこでもいい。ただ、野球だけはやってほしい」
今までに親父から何かをお願いをされたのは、この1回だけ。サッカーをやっていた親父なりに、息子がサッカーでは大成できないということを見抜いていたのかもしれない。そのおかげでプロ野球選手になれたのだから、親父には感謝してもしきれない。自分が生きていくため、お金を稼ぐために、他人より優れていたものは、間違いなく野球だったのだから。
親父に引退の報告をした時は、「そうか……」とかではなく「わかった、じゃあ」みたいな感じだった。大学まで行かせるのは親の仕事だけれど、それ以降は自分たちで生きていきなさいと教えられてきた。その言葉どおり、プロになってからは何かあっても基本的には連絡はこない。
弟が2人いるのだが、そんな親父に育てられたからか、お互いに干渉するということがなく、男3人兄弟がそれぞれにまったく別の道を歩んでいる。下の弟は2年ほど前から仕事で中国に行っているのだが、それすらも行ってしまってから半年後に知ったぐらいだ。