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「怒るのは無駄」「後悔しても始まらない」虎のレジェンド・鳥谷敬がどんなピンチでも“冷静沈着”でいられた理由

『明日、野球やめます』 #3

2022/07/26
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 トイレに行きたくなって、そのたびに用を足すという幸せな瞬間を味わうためには、まずどこにトイレがあるかということを普段の生活のなかで知らないといけない。このコンビニにはトイレが2室ある。この公園にはトイレが1室しかない。そこには駐車場があるのか、ないのか。そういうことを普段の生活で意識しておくと、いざという時に自分の目的を無事に果たせる可能性が高い。それが、準備をするということだと思っている。

 自分にチャンスがきた瞬間に、準備ができていれば、チャンスをつかんで、いい方向に進んでいけるので悩むこともない。準備ができていなければ、チャンスをつかめず、よくない方向に進んでしまうので、結果的に悩むという状況につながっていくような気がしている。悩まないために準備をするべきなのだ。

 さすがに、落ち込むことがないとは言わない。ただ、時間がどんどん過ぎていくのに、落ち込んでいては時間がもったいないと思うのだ。何か失敗をして、落ち込んで悩んでいる時というのは、だいたい答えがないから悩んでいることが多いのではないだろうか。答えがないことを悩んでも仕方がない。だったら、次の失敗をしないために、これからどうしようか、今からできることはないか、ということを考えたほうがいい。目の前で本当に嫌なことが起きてしまった時は、なぜこの選択をしたのか……と過去を振り返る反省に時間を費やしてしまいがちだ。だけど、そうではなくて、「これは取り返せる」「こうやったら次は違う結果が出る」というように、次に進む方法を探すためだけに時間を使えばいいのだ。

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悩みを消す秘訣

 悩んだ時は人に相談すればいい、という意見もあるだろう。ただ、自分はそれもしないタイプだ。「どうしよう……」と悩んでいる時に、「そうだよね……」と共感してくれる人がいたとしても、本当にそう思っているかどうかはわからない。その場をしのぐために言っているのかもしれないし、地位や名誉のために言っているのかもしれない。人に共感してもらうと安心はするかもしれないけれども、そういう安心感を求めるよりも、その失敗を使って、次に何かできないかと考える人のほうが、自分は魅力的に感じる。

「どうすればそういうふうに考えられるようになりますか?」と、聞かれることもあるが、それは「今やるべきこと、できることに集中する」に尽きるのではないだろうか。

 例えば、野球でずっと打てないとする。打てないという現実を受け止めて、「なぜこうなったのか?」と考え込んでしまうと、打てなかった映像を一生懸命見たり、過去を振り返ったりしがちで、どんどん落ち込んでいってしまう。

 明日打つためには、「どうするべきなのか?」「何ができるのか?」と考える。すると、「トレーニングしておこう」「しっかり休もう」「治療をしよう」など、今できることにたどり着く。その結果、落ち込んでいる時間がなくなる。今日の反省として一瞬、後ろには戻るけれど、あくまで次の日のためにどんどん前に進んでいく。これが自分は「ポジティブ」だと思っているし、悩むことをなくすための秘訣だと思う。