恋愛禁止というルール上の不安はあったが……
「僕が面倒みますから雇ってあげてください」
渋る社長にそう直談判して、どうにか許可をもらいました。その女友だちから相談があったのはその矢先のことです。
「一緒に面接した陽子おったやん。あの子、勇介君のことを気に入ってるみたいなんやけど、改めて紹介してもええ?」
そう言われて快諾。店で働くと決まった以上、恋愛禁止というルール上の不安はありましたが、ひとまずは紹介を受けることにしました。
そのころには「ナンバーナイン」とは別にバーを経営していました。もともとは知り合いの人間がオーナーをしている店でしたが、その人がどうも素行不良。店はそれなりに儲かっているようで、キャバクラに行っては豪遊。
それはいいのですが、ことあるごとに「俺はテポドンをしばいたことがある」と方々に大口を叩いて回っていました。そのたびに捕まえてはお灸を据えていましたが、癖は直らず、また吹聴の繰り返し。あまりに頭に来たので、ケジメをつける意味でオーナーだったバーを取り上げ、グループで経営するようになりました。
女友だちとともに彼女がやってきたのはそのバーでした。
自然な流れで陽子と交際
ちょうど僕の誕生日が迫っていた時期で、陽子はお祝いとして花束で作ったブーケを持ってきてくれました。それが嬉しかったのを覚えています。その後は毎日のように連絡を取るようになり、すぐにつき合うようになりました。どちらかが告白したわけではなかったので、交際も自然な流れだったと思います。
そのときにはグループ内でも色恋を使ったキャスト管理が半ば黙認されるようになっていて、なかには色恋を口実にキャストとつき合っているスタッフもいました。
さすがに表立って交際しているとは言えませんが、問い詰められても「色(恋術)ですよ」と説明すれば許されるような雰囲気もあり、このころには「店内恋愛禁止」というルールも徐々に緩くなっていました。
当時は顧問や会長でも店の女の子とつき合っていたりして、店内で隠す素振りもなく痴話喧嘩を繰り広げることがありました。これまで歯を食いしばってでも耐えてきた僕からすれば「なんじゃ、そりゃ」。交際後に陽子を店のキャストとして迎え入れたのはそういう反抗心があったからかもしれません。
それでも店のキャストとつき合うかたちになったのは陽子がはじめてでした。当時は店にも2人の関係は内緒にしていましたが、仮にバレても言い返せる自信を持っていました。