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3ヵ月の留置所生活

 店で働きはじめると、彼女は瞬く間に店のナンバー1となりました。このとき、陽子とは同棲するようになっていましたが、相変わらず店側には交際を隠したままでした。

 警察に逮捕されたのは、陽子と知り合って3ヵ月が経ったころ。僕が公務執行妨害で捕まる以前の出来事です。

 当時、僕はミナミに近い松屋町という場所のタワーマンションの一室を借りて、彼女とともに住んでいました。声をかけられたのは、ちょうど店に出勤しようとエレベーターを降りたところでした。すぐさまエントランスで待ち構えていた刑事に取り囲まれました。

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 どの喧嘩か覚えてはいませんが、刑事が持っていたのは傷害の逮捕状でした。南署(大阪府南警察署)に連れて行かれるなか、運悪く持っていたのが大麻。結局、大麻所持でも再逮捕を受け、3ヵ月の留置所生活を送ることとなりました。

 留置所暮らしを支えてくれたのも、また陽子でした。手紙のやり取りはもちろん、彼女は毎日欠かさず面会に訪れてくれました。夜は店で働きながらのルーティーンですから、それがどれぐらい辛いことかは同じ世界に身を置く僕もわかっていたつもりです。

 陽子と知り合うまでにも交際に発展する女性はいましたが、中学時代の失恋経験から女性を心の底から信用することはなく、つき合うといってもどこか遊びのような感覚を持っていました。本来の飽き性も相まって、つき合ってはほかの子が気になり理由をつけて別れるの繰り返し。その交際期間も1人の女性と1ヵ月続けば良いほうでした。それもこれも「女は裏切るものだ」という凝り固まった意識があったからです。

 どうせ陽子もいつか面会に来なくなるだろう――。

 留置所に入ったばかりのころも、心のどこかでそう思っている自分がいました。

 しかし、それは僕の杞憂でしかありませんでした。仕事明けに眠い目をこすりながらも毎日、面会にやってきてくれる彼女の姿は、僕にとって衝撃そのもの。まるで何かに化かされているような気分にさえなりました。

テポドングループ ©勇介/講談社

留置所でのプロポーズ

 彼女だけは僕に嘘をつかない女性なのかもしれない――。

 日を追うごとに、自分の根にあった不信感が少しずつ溶けていくような感覚がありました。これほど信頼できる女性と出会ったのは生まれてはじめてです。

「外に出たら結婚しよう」

 留置所のなかで彼女宛ての手紙にそう書きました。面会の最中、彼女からも結婚というワードを聞くようにはなっていましたが、実際にプロポーズをしたのは僕からでした。

「返事は面会で」

 彼女からの手紙の返信文にはそんな文字がありました。いざ面会室で会うと、今度は声に出してのプロポーズです。

「俺が外に出たら結婚してくれへんか」

 その瞬間、彼女は満面に笑みを浮かべました。

「はい」

 陽子はそう言って首を縦に振ってくれました。もしかしたら断られてしまうかもという不安がなかったわけではありません。