「娘さんと結婚しようと思っています」
とにもかくにもこの刺青がきっかけとなり、陽子のお父さんとも無事に打ち解けることができました。
「娘さんと結婚しようと思っています」
改めてそう頭を下げると、お父さんは「若いもの同士で決めたらええんちゃうん」と返答。僕の母もまるで同じ意見でした。
「こいつが決めた男やったらええよ」
そう言ってくれ、肝心の結婚の許可をいただきました。一気に緊張が解けた瞬間でした。
よほど馬が合ったのか、その後はお父さんとも意気投合。もしかすると接客業で培ったスキルがここでも役に立ったのかもしれません。水商売あがりの母もまた持ち前の明るさで陽子の父親とすぐに仲良くなっていました。この日はとにかく皆で飲み明かし、ベロベロのまま帰路につきました。
挨拶を済ますと保証人となってくれた友だちと連れ立って、兵庫の尼崎へと向かいました。婚姻届は尼崎市役所に提出。尼崎は親父の本籍がある場所で、その影響から僕の本籍もそのままにしていました。
陽子とは結婚式は挙げず、2人とお腹の子どもを写真に収めるだけにしました。僕も心機一転、これからは家族のためにも心を入れ替え、真面目に生きると心に誓いました。振り返れば、このときが僕の人生でもっとも幸せな日々だったかもしれません。
妊娠を機に彼女は店を辞め、専業主婦として家の仕事に専念するようになりました。僕はと言えば結婚したからといってとくだん仕事への影響はなく、変わらずキャバクラのボーイをこなしながらガールズバーを営業する毎日です。
新婚生活といっても生活リズムはお互いに真逆。僕の仕事柄、仕方ありません。店を閉めて家に帰りつくのは決まって彼女が寝ている朝。それでも彼女は必ず食事を用意してくれ、帰宅すると彼女の手料理を食べて床に就く日々。1日のうち、顔を合わせるタイミングはごくわずかでしたが、店が休みの日曜日は家で過ごすなど、家族の時間をつくるようにしていました。
大立ち回りの末に公務執行妨害で緊急逮捕されたのは、その矢先の出来事です。陽子と結婚してから2年が経とうとしていました。
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