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 彼女の笑顔を目の当たりにして、安堵の気持ちも強かったです。お恥ずかしい話、その後の面会室の会話はデレデレしてばかり。彼女との交際期間は留置所での暮らしを入れて6ヵ月ほど。そう考えればスピード婚でした。

 こうして僕の生まれてはじめてのプロポーズは無事に成功を収めました。

 婚約状態だっただけに、執行猶予つきの判決で外に出たときは、喜びもひとしおです。留置所を出てから1週間後には陽子の妊娠も判明し、まさにおめでた続きでした。

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彼女の父親への挨拶

 晴れて自由の身になったものの、やることは山積しています。まずは彼女の父親への挨拶をして、結婚の許可をもらわなくてはいけません。両家の顔合わせも兼ね、挨拶には僕の母も同行することとなりました。陽子の父親は地元で建築業をしている人でした。

 婚姻届の保証人は仲の良いミナミの友だちと決めていたので、陽子と相談し、彼女の実家にはその友だちも一緒に連れて行くことになりました。

「ちょっと淡路島行くから一緒に来てくれへん?」

「いいけど、何しに行くん?」

 事情を知らない友だちは呑気に答えました。てっきり小旅行にでも行くのかと思っている口ぶりです。

「向こうの家族に結婚の挨拶行くから」

「えっ……」

 最初のリアクションは絶句でした。数秒間の沈黙の末、ようやく言葉が返ってきます。

「いやいや……。俺が行ったらあかんやろ」

 慌てる彼に対し「お前も保証人になるんやから関係あるやん。行くぞ!」と説き伏せ、友だちの運転のもと、4人で彼女の実家へと向かいました。

写真はイメージです ©iStock.com

彼女の両親との初対面

 彼女の両親と会うのはこれがはじめて。ましてや初対面で結婚の挨拶をするわけですから緊張するのは無理もないです。もし、断られようものならこれほど情けないことはありません。道中、車内では何が何でも了解を取りつけないといけないと肝に銘じました。その気持ちは陽子も同じでした。

「刺青は隠して」

 彼女に言われて本来、着る予定だったスーツを急遽変更し、タートルネックに。気持ちばかりとはわかっていますが、僕らもお父さんに少しでも印象を良くしてほしいと必死でした。

 彼女の実家に到着し、心配する僕をよそに彼女の父親は温かく迎えてくれました。しかし、カモフラージュも虚しく、刺青の存在はすぐにお父さんにバレてしまいました。

「じつはこいつの爺ちゃんも暴力団やねん」

 僕の刺青を見て、お父さんはそう呟きました。だれより驚いたのは陽子です。

「えっ、そうなの?」

 おじいさんの素性は彼女も知らないことでした。まさかの展開に目を丸くするしかありません。