合同結婚式まで「必ず清い体を保たないといけない」
数少ない小学校の友達が自宅に遊びに来ると、教祖夫妻の写真を指差して、「これは誰?」と聞いた。
「そんな時、親からは『おじいちゃん、おばあちゃんと答えるように』と。普通の衣装じゃないですし、まず怪訝な顔をされます。これは“祝福二世あるある”なんです」
一方、物心がついた頃から徹底して叩き込まれたのが「絶対に異性を好きになってはいけない」という不条理な教えだった。本や漫画は事前に両親の“検閲”を受け、恋愛に関心を抱きそうな箇所は切り取られる。視聴してよいテレビ番組も大きく制限された。
「あなたには同じ祝福二世の相手が用意されているんだから、それまで必ず清い体を保たないといけない」
祝福二世にとって「自由恋愛」は、最も重い罪として扱われた。誰かを好きになる、人としてごく自然な感情の萌芽を、罪悪感で封じ込めなければならないのだ。寄せられた好意も同様に、得も言われぬ不安を掻き立てるだけだった。
「恋愛は統一教会の教義でいう『堕落』。一般社会の人と性的に交われば、神の血統がサタンの血統に戻ってしまい、死後、自分だけでなく、親から霊界の先祖代々に至るまで、みな地獄の底に堕ちると教え込まれてるんです。祝福二世の親である父と母は、私を堕落させまいと、それはもう必死でした」
両親に疑問をぶつけると「その考え方はサタンだよ!」
それでも、思春期を迎える中高生時代になると、教団の教えに対する疑問がA子さんの頭をよぎるようになる。なぜ人を好きになってはいけないのか。本当に天国や地獄は存在するんだろうか。それを正直にぶつけると、両親は色をなしてA子さんを叱りつけた。
「あなたは二世なのに、なんてことを言うの。その考え方はサタンだよ!」
学校の友達や先生にも胸の内を相談できないまま、A子さんは高校を卒業。大学進学後も、悩みは深まるばかりだった。ある時、A子さんは意を決して、大学内のカウンセリング室を訪ねた。
「勇気を振り絞り、カウンセラーの先生に自分の境遇と家庭の信仰を打ち明けました。統一教会の教えには疑問も抱いているけど、親は大切だし、裏切れなくて辛いんです、と」
だが――。
「熱心に信仰しているのはご両親でしょう。あなたはあなた。親から自立すればいいだけですよ」