A子さんの胸を抉った両親の言葉
両親とは、絶縁したわけではない。時折、連絡して話す機会はある。
「父と母は完全に良いものとして信仰を続けています。でも、私にとって実家は安心できる場所じゃなかった。辛かった時の思い出がフラッシュバックすることもある。親にずっと気を遣ってきましたから、今でも会うとすごく緊張しちゃうんです。メンタルがやられるので、できるだけ近づきたくないです」
一方、A子さんの弟は違った。
「弟も自分の意思で相手を見つけ、結婚しました。結婚を報告した時、母親が弟の奥さんになる女性を『殺しに行く』と口走ってしまったので、警察沙汰になったんです。弟は両親と縁を切り、戸籍の閲覧制限もかけました」
統一教会で「理想の家庭」を築くと謳われる合同結婚式。その地続きにある未来図の一つが、A子さん一家のケースなのだ。
「あなたは統一教会がなかったら生まれてこなかったんだよ。教会の教えを否定するのは、自分の存在を否定することになるんだよ」
信仰や教義を巡って両親と衝突するたび、投げかけられたその言葉が、A子さんの胸を抉った。
「自分は何のために生まれてきたのか。こんな辛い思いをするなら、生まれて来なければよかったと何度も思ったことか。最も苦しんでいた時期、統一教会の松濤本部へ行き、ナイフでも振り回したら、私の苦しみも少しは世の中に伝わるのかな、と考えたこともありました。山上容疑者の事件が起きた時は、とても複雑な気持ちになり、ショックを受けました」
「新興宗教の二世は、息を潜めて生きています」
統一教会は「週刊文春」の取材に対して、「献金にノルマは存在しない」と回答した。
A子さんがいま、最も伝えたいことは――。
「カルトは決して他人事じゃないと知ってほしいです。新興宗教の二世は、息を潜めて生きています。もしかしたら友達や恋人が二世かもしれない。カルトは巧妙に日常の中に溶けて込んでいるから、近しい人が飲み込まれることがあるかもしれない。誰も無縁じゃないってことを伝えたいです」
7月20日(水)12時配信の「週刊文春 電子版」及び「週刊文春」7月21日(木)発売号では、山上徹也容疑者の母親が統一教会に“洗脳”され、家族が崩壊していく履歴や、下村博文元文科大臣、高村正彦前副総裁などの自民党議員と統一教会の「本当の関係」、さらに小誌記事に対して激しい抗議デモを行った統一教会と週刊文春の“30年戦争”などについて大特集している。
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