専門家にも、祝福二世が抱える懊悩は響かなかった。部屋を後にしたA子さんに残ったのは、徒労感と絶望に近い諦念だけだった。
好きな男性ができた。だが、両親は――
転機は、社会人になったA子さんがSNSを始めたことだ。自身が統一教会の二世であることをプロフィール欄に書き、長年溜め込んできた思いの丈を吐き出した。すると、同じ境遇にある他の二世から、共感や助言のメッセージが届くようになったのだ。
「初めて自分を受け入れてくれる場ができて、本当に救われました。両親は二世の苦しみに向き合ってくれず、教義を押し付けて神に祈るだけでしたから……」
そして、20代前半になったA子さんは、好きな男性ができた。両親が交際を知った時、その怒り様は凄まじかった。別れさせようと、彼氏に電話をかけてこう罵ったという。
「お前はサタンだろう! うちの娘をたぶらかしやがって。お前の職場に電話して、居られなくしてやるからな!」
やむなく、二人は破局。父や母、祝福一世にとっては、神の血統を継続させることが何にも増して優先される。それを思い知るばかりだった。
「普通の幸せな家庭というものがイメージできませんでした」
「両親は教団のイベントに何とか私を誘い出そうとしてきました。いま二世の結婚は、一世の親同士がある程度、話し合って決められます。教団内のマッチングサイトがあって、そこに登録をするんです。その上で費用を払って合同結婚式に参加する流れです」
もともと合同結婚式によって自分の意思ではない婚姻関係を結んだ両親は、性格が「水と油」だったという。
「すごく仲が悪かったんです。物を投げ合うような夫婦喧嘩も日常茶飯事で。祝福を受けた夫婦は、離婚がご法度。親はお互い、『“祝福”じゃなきゃ絶対に離婚している』と何度も言っていたし、そのせいで私は、普通の幸せな家庭というものがイメージできませんでした」
以前、父と母に入信の経緯を聞いたことがある。
「父の家は、家族が早くに他界していたり、障がいを持った身内もいたとか。母の方も、母親(A子さんの祖母)が早くに病気で倒れるなど、家のことで苦労していました。ともに早々に家を出て、統一教会の教えと出会ったのです。教会の『家庭が大切』という教えは、家庭にコンプレックスを持つ人がハマりやすいんだと思います」