1ページ目から読む
4/5ページ目

両親が漏らしていた「一軒家が建つくらいの額」

 振り返れば、実家の暮らしぶりは常に貧しかった。

「両親は働いていましたけど、裕福だった時期なんてありません。ずっと古くて狭い借家暮らしです。うちも教団に相当な額を献金していたようですが、生活が破綻するところまではいかなかっただけで。後年、親がチラッと漏らしてたのは『一軒家が建つくらいの額』だと。数千万円といったところでしょうか。親はいつも『お金がない』とイライラしていました」

 献金行為は、内部で「勝利」と呼ばれていた。

ADVERTISEMENT

「地域の教会ごとにノルマはあるんです。何か教団のイベントがある時に一つの家庭で100万円とか。それを達成すると、『誰々さんの家庭は勝利しました』って言い方をされ、周囲から褒め称えられるんです」

 この環境から抜け出したい。A子さんはそう考えるようになっていた。

「二世として生きてきたアイデンティティはあるんです。ただそれを壊した時、どう生きていけばよいか分からない。自分の土台は統一教会にしかないし、まっさらな状態で一から自分を作り上げていくしかありませんでした」

初期の主力商品だった「多宝塔」

親元を離れ、自分の意思で結婚相手を決めた

 実家住まいだったA子さんは、30歳を迎える前、親元を離れることを決意。実家から車で30分の距離にアパートを借りた。両親は激しく動揺したという。

「働き始めてからは私も家にお金を入れていましたし、家計を支えている面もあったんです。だから父と母は『親を捨てるのか』って。また男女交際をするんじゃないかってかなり警戒もしていました」

 だが、A子さんは、最終的に自分の意思で結婚相手を決めることになる。もちろん「外の世界」の男性である。

「夫や夫の家族は、家庭の信仰や私の境遇を全て理解した上で受け入れてくれました。やはり大変だったのは私の両親でした」

 A子さんから結婚の意思を告げられた両親はこう言ったという。

「私たちは絶対に受け入れられない。相手と会う気も一切起こらない。ショックで死んでしまいたい……」

 喜び祝ってくれることなど期待していない。認めてもらえるとも思っていなかった。両親には入籍後に報告を済ませ、A子さんはいま新たな人生を歩んでいる。