「日本一の超人気ストリッパー」との思い出
印象に残っているひとりに、影山莉菜さんという人気の踊り子がいる。影山さんは、地上波のテレビ番組にも出演するなど、当時「日本一の人気ストリッパー」だった。
通常の踊り子は楽屋が共同だが、スターだった影山さんはどの劇場でも個室を用意されていた。その部屋のドアはいつも、少しだけ開いていたという。影山さんが何をしているか把握できたほうが従業員は安心するはず。もしも自分が眠っているときにスタッフが知らずにノックをして起こしてしまったら、きっと平謝りされるだろう。それを避けるための彼女なりの気配りだったのだ。
そんな影山さんが引退することになり、最後の撮影を谷口さんが行うことになった。影山さんが宿泊していた部屋でカメラを向けていると、唐突に本名を明かしてくれた。驚く谷口さんに、スターは「これから私は本名で生きるの。普通の人になるし、劇場に思い残すこともないから」と、笑顔で真意を明かしてくれたのだった。「そのときに交わした会話は忘れられません」と谷口さんは振り返る。
「僕はこう言ったんです。『引退後、もし街中で影山さんに会って、声をかけたらインタビューさせてもらえますか?』って。そうしたら、『あなただったらいいよ、もし見つけられるんだったらね』と。
結局、それから会えてはいないのですが、時代をつくった踊り子さんが僕を信頼してそう言ってくれたのはうれしかったですね」
他にも「絶対にステージの写真は撮らせない」というスタンスだった人気踊り子の結奈美子さんも「1回だけであれば」と谷口さんに撮影を許し、その後は継続的に被写体・写真家として信頼を築いていった。結さん以外にも「あなたなら」と谷口さんだけに撮影を許した踊り子は20人以上いる。
いつしか劇場関係者も、「お姉さんたちの良いところをいっぱい撮ってくれ」と応援してくれるようになったという。
撮影をすることで、ファンもよろこんでくれた。谷口さんが劇場に行くと、客が「〇〇さんをキレイに撮ってくれてありがとう」「〇〇さんをほめる文章を書いてくれてうれしかった」と言いながら、缶コーヒーなどを差し入れてくれた。
舞台だけでなく、楽屋での踊り子の姿を撮影するのもファンのため。どんな常連であっても入ることができない楽屋のなかと、そこでしか見られない踊り子の姿を見たいはず…という思いがあるのだ。