役の中に「人」が出ているところが好き
金沢 完璧でした。ただ、剛さんのほうから「ごめんなさい、もう一回やらせてもらっていい?」と言われたシーンがあるんですね。剛さんが娘役の女の子と一緒に公園にいる、何気ないシーンでした。僕としてはオッケーだったと思ったから、「どうしたんですか? 剛さん」と聞いたら、「欲が出た」と言ったんです。たぶん、「芝居しちゃった」って意味なのかなと。
草彅 たぶん、そうかな。それで、もう一回やったんですよね。
金沢 言葉で説明しろと言われたら難しいんですが、確かに2回目の方が良かった。
草彅 あそこは娘役の女の子と、初めてお芝居するシーンだったんです。子供って素朴で、そこが素晴らしいから、僕がお芝居お芝居しているとダメだったんですよね。例えば声のトーンも「こうやったほうがお父さんに聞こえるんじゃないかな?」とか考えていたんだけど、ちょっとわざとらしかった。もっとフラットな感じのほうがいいなと思って、「もう一回やらせて」とお願いしたんです。
金沢 剛さんの芝居って、こうやって喋っている時と演技している時とで実はあんまり乖離してない。裏表がないというか、役の中に「人」が出ていると思うんです。そこが好きなんですよ。
長いキャリアの中のドでかい出会い
草彅 演技経験のない子たちが画面の中であれだけ輝いているのを見ると、演技って何なんだろうなと思います。自分の中で、いつも論争しているんですよ。「役をしっかり作って、これまでとは変わった自分を見せたいな」「いや、やっぱり自分のままでいいんだ」と。今の僕の結論としては、監督の言う通り、どの役も「草彅剛」でいいんじゃないかなと思う。
金沢 例えば『ミッドナイトスワン』で剛さんが演じたトランスジェンダーの役は、「なりきっている」と絶賛されたじゃないですか。あの役もじゃあ、本人的には?
草彅 凪沙という人は僕自身の現実とはかけ離れているけれども、凪沙も僕なんだと思っています。
金沢 長いキャリアの中で、役者さんから影響を受けたことっていろいろあると思うんですけど、ドでかい出会いってありますか? 高倉健さんとの出会いは大きかったと伺ったことはあるんですが。
草彅 そうですね。あとは大杉漣さん、田村正和さん。