「いいか? 私たちは歴史を作れるんだ」
71年8月、『ゴッドファーザー』のシチリアロケのあと、パラマウントはコッポラに続篇の脚本執筆を依頼し、全面的な決定権を与えることを約束したが、コッポラは「続篇はかならず1作目より劣る」と断わった。それを聞いたチャールズ・G・ブルードーンはコッポラを怒鳴りつけた。「いいか? 私たちは歴史を作れるんだ。今までに、オリジナルより優れた続篇を作った奴はいない。だが、君ならできる!」。
コッポラは「第1作よりも野心的で、美しくて、一歩進んだ作品」とは何か思いあぐねた。プーヅォの提案により、マイケル(アル・パチーノ)がライバルを倒して頂点に登りつめるとともに家族を失う物語と、若き日のヴィトー(ロバート・デ・ニーロ)がシチリアからアメリカに移民し、マフィアとして名を成してゆく物語を1章ごとに交錯させる、商業映画では類例がない斬新な構成を立てた。しかし、テスト試写の際、観客は2つの筋が並行して進む構成に混乱し、公開直前まで編集作業が重ねられることとなる。
『PARTⅡ』にブランドが出演しないことが決まった時点で、コッポラはマイケルの最大の敵役ハイマン・ロスを演じる、ブランドに匹敵する存在感の俳優を探し求めた。パチーノの提案で、コッポラはアクターズ・スタジオの主宰者で、ブランド、パチーノやポール・ニューマンなどを育てたリー・ストラスバーグにこの役を委ねる。74歳のストラスバーグが演ずる、“陰謀と駆け引きの天才”マイヤー・ランスキーをモデルにしたロスとアル・パチーノの立て引きが『PARTⅡ』の見所である。
ロスは、前作で親友のモー・グリーンをマイケルに殺された恨みから、マイケル宅にマシンガンを乱射し、幹部の命を狙う。しかし、マイケルからキューバの事業への出資を引き出したい思惑もあり、ハバナを訪ねたマイケルを「君がわしの後継者だ」と歓待する。にこやかに振舞いつつ、眼裏(まなうら)に底知れぬ冷たさを湛えたストラスバーグの芝居が何とも奥深い。
「部下を殺したのは誰だ?」とマイケルに訊かれ、ロスは親友が殺されたときの心境を打ち明ける。「話を聞いた時、わしは怒らなかった。そして自分に言い聞かせた。これが自分で選んだビジネスなんだ。誰が命じたかは聞くまいと。なぜなら、そんなことはビジネスとは関係がないからだ」。このセリフには、ひとつの稼業を選び、その稼業に生きる者の覚悟が宿る。マイケルはロスから「治者」になるためのマキャベリズムと孤高さを学び、やがては目の上のたん瘤であるロスを殺す。
バチカン法王庁の闇に斬りこむ
74年に公開された『PARTⅡ』は、アカデミー賞作品賞、脚色賞、監督賞、助演男優賞を受賞し、前作よりも高く評価する批評家も少なくなかったが、アメリカでの配給収入は前作には及ばず、日本での配給収入も前作の40パーセントに留まった。しかし『PARTⅡ』が描いたイタリア系移民の苦闘の歴史はマイノリティたちの共感をも集め、1976年の建国200年(バイセンテニアル)祭に向けて「多民族統合」に向かおうとするアメリカで、『ゴッドファーザー』2部作はいわば「国民映画」になった。
88年に『ゴッドファーザーPARTⅢ』の製作が発表されたのは、これまで続篇を作る気がなかったコッポラが1200万ドルの負債を抱えて破産寸前まで追い込まれ、オファーを受けざるを得なかったからだ。