頼朝亡き後、さらに壮絶な殺し合いが始まる――。ともに東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏と本郷恵子氏による対談「『鎌倉殿』の死生観」(「文藝春秋」2022年8月号)を一部公開します。
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三谷脚本ならではの魅力とは?
本郷和人(以下、和人) NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が後半戦を迎え、編集部から2月号に続いて夫婦対談の依頼がありました。
本郷恵子(以下、恵子) なんだかお話しするのは久しぶりね(笑)。
和人 我が家は主従関係がはっきりしていまして。恵子さんは私の上司で東大史料編纂所の所長。いろいろお忙しい最中に、私が恵子さんを対談へとなんとか口説いてきましたよ。さて、ここまでドラマをご覧になっていかがですか。
恵子 手紙や合戦の報告書などが出てくるシーンがとてもいいですね。鎌倉時代は満足に読み書きできない武士が多かったですが、御家人たちが懸命に書いた個性豊かな手紙を画面に映しだし、興味深く伝えています。汚い文字で書き殴られた文を読んだ源頼朝が「田舎武士め」と吐き捨てたりしてね。あと、北条政子を演じる小池栄子さんは立派な役者さんになられたなぁと。
和人 政子にピッタリだよね! それに佐藤浩市さんの上総広常(かずさひろつね)は「新選組!」の芹沢鴨を彷彿とさせる悪役ぶりでかっこよかったです。中村獅童さん演じる梶原景時(かじわらかげとき)もいい。
恵子 獅童さんの景時は人相が悪くて本当に悪役に見えるわ(笑)。私は北条時政役の坂東彌十郎さんもうまいなあと。それから文覚、市川猿之助さん。歌舞伎役者ばかりを推しているわけではないのだけれど、あれはじつに怪しい僧で、いかにもっていう感じが目を引きます。
和人 推しでいえば、私はガッキー(新垣結衣、八重役)だな。
恵子 そんなことは誰も聞いていないわよ。それより印象的なのは上総広常が慣れない文筆に不器用ながらも励んだり、源頼朝の弟・範頼(のりより)が畑仕事に精を出したりと愛嬌ある姿を見せておいて、有無を言わさず殺す。そのギャップが鎌倉時代の血なまぐささをより際立たせている。三谷幸喜さんの脚本ならではですね。