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 私は日傘を差すようになって15年ほどになるが、最初の数年は道で“お仲間”を見かけることは年に1度あるかないかだった。

 それが今では都内の人通りが多いスポットなら1人2人は見かけるし、表参道や六本木のようなエリアなら「ちらほらいる」くらいのレベルまで増えている。

 ただどうしても、“流行っている”という感覚には程遠いのが正直なところだ。山手線から少し外れるだけで日傘を差した男性を見かける機会はぐっと減るし、大都市部以外ではいまだに希少生物の類だろう。

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 たしかに男性の美容意識は近年急速に向上しており、今年の1月にナリス化粧品が発表した調査結果によれば、20代~30代前半の世代では化粧水を使用する男性が50%をギリギリ超えている。しかし裏を返せば半数は使用しておらず、年齢が上がればさらに減るということだ。日焼け止めに至っては、使用率が25%を超える世代は1つもない。

「女性の方が険しい反応をする人が多い気がしますね……」

 周囲の男性に話を聞いても「一般的にはまだ女性のものでしょう?」「運動部時代は肌が白いのがコンプレックスだった」「普通にキツイ」などの反応がほとんど。次のような興味深いものもあった。

©文藝春秋 撮影・宮崎慎之輔

「日傘を差すと、リベラルな政治性をアピールすることになってしまう気がする。 “男らしさサークル”から離脱するのは少し怖いし、下手すると『あなたたちとは違うんです』というメッセージと取られかねないでしょう?」

「男らしさ」は近ごろ評判が悪い概念の1つだが、やはり行動原理としてはまだ多くの男性の心に住み着いているようだ。この声は男性からの視線を気にしたものだが、実際に日傘を使っている男性からは「女性の視線のほうが気になる」という反応も多かった。代表的なのは以下のようなものだ。

「日傘は持っていますが、差すのは年に数日。1人で出かける時は使いやすいけれど、人と会う時はツッコまれるのも面倒なので持っていきません。最近だと男性は見て見ぬふりをしてくれる人も多いですが、女性の方が険しい反応をする人が多い気がしますね……」

 厳しい反応をする女性に遭遇した経験は筆者にもある。実家へ帰省する際に日傘を差していったところ、それを見た母親が滞在中に何度も「かわいい日傘だね、私にくれない?」と頼んできたのだ。最初は怪訝に思ったが、私が日傘を差すことを良く思っていないことはすぐにわかった。表立って否定することは避けたいが、なんとか手放させようとした結果が「私にくれない?」だったのだ。

©文藝春秋 撮影・宮崎慎之輔

 2022年7月26日現在、「日傘男子」と検索した時にグーグルが提案してくるワードの最上位は「気持ち悪い」である。「男性 日傘」でも3番目には「恥ずかしい」が出てくる。マジョリティの意識は変わっていない。

 男性が日傘を普通に差す日が来ればいいと思うし、実際に少しずつはユーザーも増えている。たださも「すでに流行っている」かのような“願望”を風物詩的にニュースにするのは、そろそろ辞めてもいいのではないだろうか。