昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

エンゼルスが大谷の実力を信じていた理由

 これだけスカウト、報道陣、そしてファンをも、大谷にはメジャーでやっていけるだけの力がないと見ているなかで、エンゼルスは大谷がやっていけるという証拠が山ほどあると確信しているようだった。

 そのうちの1つは、大谷がすでに5年間、日本で実績を残しているということだった。

 ダブルAにいるほかの23歳の選手とはわけが違い、大谷は世界で2番目に優れたリーグでスター選手だったのだ。

 ビリー・エップラーGMは、まだニューヨーク・ヤンキースの役員だった時代に、いく度か日本へ行って大谷を視察していた。そこで目撃した“ワオ! の要因”は、たかだか数週間のスプリングトレーニングの結果で消えるものではなく、アリゾナの空気が薄くて乾燥した環境での試合は評価の対象にならないというのだ。

「今までの実績があるから、オオタニは二刀流でもやっていけるとわれわれは確信している」

 そうエップラーが言明したのが3月17日で、大谷のマイナー開幕が取りざたされたときのやりとりだった。大谷が日本で残した実績からくる確信以上に、この地に入ってからの大谷には確信できる要素もあるとエップラーは付言した。

「われわれは、四球率とストライク投球、打者の空振り数に注目している。こういう数値を精査したところ、納得のいく数値になっている」

 一方の打席についても、やはりこの時期の数値としては悪くないのだという。

「オオタニ自身が納得のいく成績、たとえば打率などで、周囲が期待する結果を出していないのは私もわかっている。けれど、いい投手との対戦でも強くバットを振れていた。ストライクゾーンより外のボールに手を出すこともなかった。そういう点は好材料だ。だから、目に見える数字よりはいい状態だと判断している」

©文藝春秋

 エンゼルスはまた、大谷が公式戦に入ってアドレナリンが上昇すると、さらなる実力を発揮できるのではないかと踏んでいた。

 スプリングトレーニングの結果が参考にならないということは、誰もがわかっている。球場がほとんど空席ということもあるが、選手たちも試合を準備の一環のように捉えているからだ。

 だから、その日、出場予定がない選手が、午前中に軽く練習して、午後に試合開始するころにはゴルフコースに行っていることもよくある。また、朝にクラブハウスへやってくるものの、その日の対戦相手がどこかもよくわかっていないことも全然珍しくない。

 だからといって、スプリングトレーニング中に選手たちが全力を尽くしていないという意味ではない。単純に期間中の打率や防御率といった数字をそれほど気にしていないというだけだ。

 エンゼルスは大谷に、この疑念のうねりに反論する機会を与える気は十分にあるようだった。

「1つだけ伝えておくよ。スイッチが入ったら、まったく別世界になるんだよ」

 そう語ったのは、大谷とバッテリーを組んでいるベテラン捕手のレネ・リベラで、空席のスタジアムでティファナ・トロスとの試合を終えたあとのことだった。

「こんな場所で投げるのは、難しいよ。ファンがいないんだから、アドレナリンが出てくるはずがない。いざ照明灯に電源が入って『プレーボール!』の声がかかれば、今とは全然違う状態になる。もっと球速が上がるし、変化球の曲がりもよくなる。それが、本物のオオタニだよ。今は少し時間が必要なだけだ」

SHOーTIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男

ジェフ・フレッチャー ,タカ大丸

徳間書店

2022年7月12日 発売

この記事の写真(7枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー
z