「死ぬ前にやっておきたいことはあるの?」
実は寺西さん、脳出血で倒れる直前に同居するお孫さんからこんな問いかけをされていました。
「おばあちゃん、死ぬまでにやりたいことって何?」
重い病を患っている祖母に聞くに聞けないデリケートな質問ですが、普段から「死」について、オープンに語り合っているからこそできるツッコミです。
「おばあちゃん、いつも『早くあの世に行きたい』って言ってるけどさ。死ぬ前に、これだけはやっておきたいってことはあるの? よかったら紙に書いて」
お孫さんは、レポート用紙に「死ぬまでにやりたい10のこと」と、タイトルを書き、1から10までの番号をふって渡しました。すると、寺西さんは、「10個も思い浮かばへんなぁ」と言いながら、ペンをとったのです。
〈死ぬまでにやりたい10のこと〉
(1) お家(うち)に帰りたい
(2) 皆と一緒に食事したい
(3) 近所の人とお茶したい
書いた願いは、この3つだけでした。
「前田さん、うちのおばあちゃん、こんなことを書いたんですよ」と、寺西さんが書いたレポート用紙をお嫁さんが見せてくれました。
鉛筆の文字が少し揺れているけれど、寺西さんらしく、達筆でしっかりとした筆圧で書かれている。左半身が動かない中で一生懸命、書いたんだろうな……。そう思ったら、胸にぐっと込み上げるものがありました。
寺西さんの願いをかなえるために自宅で介護
寺西さんの願いを知ったご家族は、早速自宅に連れて帰るための態勢を整えていきました。退院後はお嫁さんと息子さん、近くに住む、息子さんのご兄弟で介護の分担を行い、交代で昼も夜も見守り続けます。
あるとき、お孫さんがおばあちゃんの手をさすっていると、不思議なことが起こりました。
意識がないはずの寺西さんの目からツーッと涙が流れてきたのです。
「おばあちゃん、泣いてるのかな。それはうれし涙? それとも悲しい涙?」
お孫さんが尋ねると、寺西さんのほっぺたが持ち上がって、にっこりと笑っているように見えます。