もしあなたが人生の最期を迎えるとき、どんな風に過ごしたいと思うだろうか。もしあなたの“大切な人”が人生の最期を迎えるときは、どんな風に過ごしてもらいたいと考えるだろう——。
ここでは、終末期の患者の願いをかなえる付き添い看護サービス「かなえるナース」を運営する前田和哉氏の著書『自分らしい最期を生きた人の9つの物語』(KADOKAWA)から一部を抜粋。終末期を迎えた90歳の祖母の願いをかなえるために一致団結した、寺西さん一家の“家族の絆”を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)
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大病を患った90歳女性の寺西さん
聴診器や血圧計が入ったリュックを背負い、相棒の自転車で患者さんの家から家へと走る。訪問看護師になって1年半が経(た)った僕は、終末期の患者さんがどうしたら自分の望む最期が送れるのか、ときに迷い、壁にぶち当たりながらも日々の看護にまい進していました。
そんなときに出会ったのが、90歳女性の寺西さん。旦那さんは3年前に他界し、息子さん夫婦とその娘さんの4人で暮らしていました。
数年前に大腸がんを患い、ようやく快方に向かってきたところに今度は脳腫瘍を発症して、倒れて入院。幸い、命はとりとめましたが、左半身に麻痺(まひ)が残ってしまいました。
でも、寺西さんはその後の治療を望まず、手術しないことを決断。自宅療養が始まったタイミングで、僕が訪問看護に入ることになったのです。
“たび重なる病に、ご本人もご家族もさぞ気落ちされているんだろうな……”と思いきや、皆さんの会話をそばで聞いているとどうも様子が違います。
「あたしゃ、もうええわ。十分生きたし、そろそろお迎え来てくれへんかなぁ。お父さん、はよ、そっちに連れてってくれい!」
関西出身の寺西さん。冗談交じりに、旦那さんの位牌(いはい)に向かってつぶやくと、
「おばあちゃん、歯も全部あるし、よく食べるし、めっちゃ元気じゃん。この調子だと100歳まで生きるわ(笑)」
ご家族がすばやくツッコミを入れて、笑いが巻き起こっています。
あれれ? 想像以上に明るい雰囲気。「寺西さんのお宅っていつもこんな感じなんですか?」と尋ねると、「そうなんですよ!」と息子さんのお嫁さん。寺西さんが倒れる3カ月前には、ご家族でこんな会話もしていたそうです。
「おばあちゃん、今度お花が丘一面に咲いている公園に行ってみようよ! そこ、天国に一番近い公園って言われてるんだって」
「ほう、天国に近いんか。ほな、行かなあかんな!」
タブーに思われがちな「死」にまつわる話題が、このお宅では笑いに変えて話されている! ポンポンと思ったことを言い合えるオープンな関係に、いい意味でカルチャーショックを受け、一気に寺西家のファンになってしまいました。