19歳で映画デビューを飾り、早々にその存在感が注目を浴びる。そして1983年には映画『卒業白書』に主演。台本には「パンツ姿で家中で踊る」と1行だけ書かれていたシーンを監督と膨らませていき、結局は1分近く踊り続ける名シーンを作り上げ、ゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされた。まさに新進気鋭の若手スターだ。
一方で同時期にしっかり痛い目にもあっている。『卒業白書』と同時期に主演した童貞を捨てるために旅をする若者たちを描いたコメディ『爆笑!? 恋のABC体験』(1983年)は、本人的に出演に乗り気ではなかったが、エージェントに出演を命じられて断り切れず出たという。結果、映画は興行/批評の両面で失敗した。邦題が『爆笑!』ではなく『爆笑!?』と「?」マークがついている辺りに限界が感じられるように、日本でも劇場公開すらされなかった。
後のインタビューでは本作での経験を「自分が何をやりたくて、何をやりたくないかを学んだ」「よいスタッフと、よい監督とだけ仕事をしなければならない。そうして成長しなければ」と語っている。この発言の通り、彼はここから仕事相手を一流映画人にしぼってゆく。高額のオファーでも意にそわない役なら断り、逆に出たいと思ったら自分から営業に行った。
運命の出会い! 才能が爆発する20代
フランシス・フォード・コッポラ(『ゴッドファーザー』『地獄の黙示録』)、リドリー・スコット(『エイリアン』『ブラックホーク・ダウン』)、マーティン・スコセッシ(『タクシードライバー』『アイリッシュマン』)……この頃にトムが組んだ監督は巨匠ばかりだ。おのずとトム・クルーズというブランドは高まり、ルックスだけではない、実力派俳優としての評価も固まっていった。
トムのブランド力を一気に高めたのは、言わずと知れた戦闘機映画の傑作『トップガン』(1986年)だろう。無鉄砲な若きパイロットの挫折と成長を描いた青春モノで、コテコテのロマンスとド迫力の空中戦が話題になり、世界中で大ヒットを記録。
レザージャケットに大門サングラスことティアドロップ型サングラスでキメたトムは、どこからどう見ても文句なしにカッコよく、世界中でフォロワーが続出する。ここ日本でも織田裕二主演で戦闘機映画『ベストガイ』(1990年)が作られるなど、大いに話題となった。
冒頭に引用したトム・クルーズの発言はこの頃のもので、ポール・ニューマンに言及しているのは『ハスラー2』(1986年)で共演したからだ。ビリヤードに人生を懸ける男たちを描いた『ハスラー』(1961年)の25年ぶりの続編で、トムはポールに挑戦する血気盛んな若手選手を演じた。そしてこの作品でポールは61歳にして、アカデミー主演男優賞を受賞している。