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 糸柳が訊くと、F谷さんはあるショットバーの店名を口にした。そのショットバーを経営していたIさんという男性は、糸柳の知りあいで店にもいったことがある。

「バーのマスターのくせに、めっちゃ酒が弱いねん。そんなに弱いんやから、呑まんといたらええのに、ていうたら――」

 Iさんはこの店をはじめてから、急に酒が弱くなったといった。

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過去に3回も変死があった店舗

 ある日、そのバーの常連客が店の前を通りかかったら、昼間なのにシャッターが開いていた。変に思って店内を覗くと、Iさんが床に倒れていた。

 常連客は救急車を呼び、Iさんは病院に搬送された。

 診察の結果、なぜか片脚が血行障害で壊死しかかっていた。かろうじて切断はまぬがれたものの、軽い障害が残った。そのせいでIさんはバーを畳み、実家に帰った。

「あのままバーをやってたら、亡くなってたと思います」

写真はイメージです ©iStock.com

 F谷さんによれば、Iさんのバーがあった店舗は過去に3回も変死があった。あるときは年配の経営者、あるときは従業員が不可解な死を遂げた。

 その店舗がスナックだったときは、店がずっと閉まっているのを不審に思った常連客がシャッターを開けた。店内に入ってみると、その店のママがカウンターのなかで首を吊っていた。

 糸柳はその店で3件も変死があったのは知らなかった。けれどもIさんがショットバーを経営している頃、常連客のあいだで妙な噂が流れたのを耳にした。

「店ンなかで、生首を見たって客がようさんおったわ」

 Iさんがショットバーを閉店したのは8年前だが、そのあとスナックが2軒潰れ、現在はラーメン屋になっているという。

※本文は書籍刊行時(2019年)のままです。

忌み地 怪談社奇聞録 (講談社文庫)

福澤 徹三 ,糸柳 寿昭

講談社

2019年7月12日 発売

忌み地 弐 怪談社奇聞録 (講談社文庫)

福澤 徹三 ,糸柳 寿昭

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福澤 徹三 ,糸柳 寿昭

講談社

2022年7月15日 発売