M島さんが状況を確認しにいくと、蠅も不審な男もいなかった。
老婦人はぜったいにいると譲らなかったが、証拠もないのに対応はできない。クレームを放置していると、老婦人は腹に据えかねたようで2ヵ月ほどで退去した。
ところがそれ以来、M島さんは体調を崩しがちになった。
しかも所有している貸物件は空きが増え、売れるはずの物件に買い手がつかない。老婦人が住んでいた部屋も、むろん空いたままだ。
マンションの過去を調べてみると…
「なんで、こんなに調子悪いんかな」
M島さんが会社で愚痴ると、社員のひとりが、
「こうなったのは、あの部屋を買ってからですよ。やけに安かったから、なにかわけがあるんじゃ――」
気になって調べてみたが、過去に事件や事故があった形跡はない。
それでも社員の言葉が頭にひっかかって、問題の部屋を捨て値で売却した。
とたんに会社の業績は回復し、体調ももとにもどった。
* * *
「実はそのマンションのことを、ぼくも調べてみたんです」
とF谷さんはいった。
「たしかにM島さんが買った部屋はなにもなかった。でも真上の部屋で変死が2件あったんです。M島さんが買う半年前に孤独死、4年前には自殺」
その部屋に住んでいた老婦人は真上の部屋が夜中に騒ぐといったが、当時真上には誰も住んでいなかったという。
「マンション以外で、なにかないですか」