俳優のOKをもらうまで1年待った
そうして作られたウ・ヨンウを演じているのは、実力派の若手俳優、パク・ウンビン(29歳)だ。6歳の頃から子役として活動し、2021年にはドラマ『恋慕』で最優秀女優賞を受賞している。制作陣は、「ウ・ヨンウを演じられるのはパク・ウンビンしかいない」とオファーし、最初は断られたが、ドラマの完成度はウ・ヨンウを演じる俳優にかかっていると1年間ほど待ったという。
パク・ウンビンは断った理由について「良い作品だと思ったが、私はうまく演じられる自信がなかった。誰も傷つけず、どんなことにもひとつも障りなく演じられるのかと思ったら怖くなった」(雑誌『Allure Korea』)と話している。
このパク・ウンビン演じるウ・ヨンウの愛おしさは格別だと思いながら筆者はドラマを観ていた。1話に出てくる回転ドアが抜けられないウ・ヨンウが、同僚にワルツのステップで入るのはどうかとアドバイスされ、実際にリズムとりながら意を決して入って行く姿はとてもかわいらしい。けれど、ウ・ヨンウは後にこうつぶやいた。
「私の名前は、英に禑。花のようにきれいな、福をもたらす人という意味です。でも、怜悧の怜に愚かな愚がもっと合っているのではないでしょうか。回転ドアも通り抜けられないウ・ヨンウ。怜悧で愚かなウ・ヨンウ」(朝鮮日報、7月24日)。
この言葉で、自閉スペクトラム症者への筆者の視線にも気づかされた。
ドラマに出てくるのはいずれも身近にありそうな事件で、これは実際の弁護士が書いた本をもとに脚色したという。こんなところも共感を呼んでいるように思う。
保護者からは「現実と乖離している」という声も
こうして爆発的な人気となる半面、実際に自閉スペクトラム症を持つ子どもの保護者からは、「現実と乖離している」という声も出ている。ある保護者は、掲示板にこう書き込んだ。
「天才とか、大手法律事務所の弁護士という社会的に上流階級への仲間入りを成し遂げたウ・ヨンウという設定自体がもやもやする。小学6年生なのにまだ排泄もちゃんとひとりでできないわが子と比べると余計にそう思う」
韓国メディアはウ・ヨンウ人気を背景に、実際の自閉スペクトラム症の実態についてひんぱんに取り上げるようになっており、ウ・ヨンウとは比べものにならないほどの賃金の低さを調査してもいた。保護者のひとりはまたこうも書いていた。
「他人が、息子のことを、どうしてあんな風なの? と見てくる視線がしんどかった。ドラマで少しずつ慣れて、自閉スペクトラム症を持つ人への認識が改善されるなら、少しは視線が柔らかくなるのかもしれない。自閉スペクトラム症はまったく同じものがひとつもないけれど、うちの子どもを肯定的に見てくれる雰囲気が作られればうれしい」