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 脚本家のムンは先の記者懇談会でこんなことも言っている。

「この作品は温かい、癒やしの作品ではありますが、その中にはたくさんの野心が隠れています。センシティブな素材を扱った業界の慣例に素直に従わないドラマですが、いい素材に専門家の知識が散りばめられており、視聴者がさまざまな話ができるところがあるんです」

Netflixシリーズ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」独占配信中

 脚本家の思いどおり、韓国は今、ドラマを通して自閉スペクトラム症について、社会が、人がどう対応していたのか、また実際の障害者からの声が拾い上げられている。

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 記事では「自閉スペクトラム症」としているが、この言葉も韓国では「自閉スペクトラム障害」と書かれる。これは、「自閉は病気ではなく障害であり、自閉症というのは差別的な表現」と障害者から声があがったためだ。

刺激的なドラマが増えた業界に、一石を投じた

 それにしても、韓国のドラマはこうした社会的な題材を扱う作品がとても多い。それも上っ面を触るだけではなく、正面から踏み込んで深く掘り下げる。しかも、ひとつのテーマを社会の変化を見ながらたゆまず取り上げる。それでもエンターテインメント的な要素も入るので構えて見るような作りにはなっておらず、観る側はドラマを見終わった後に自然と“何かを”考えるようになる仕掛けだ。そして、それが世界的に共感を呼んでいる。

 ドラマ業界は、NetflixなどのOTT(インターネットを通して直接視聴者に配信するサービス)の登場で熾烈な競争の中に入っており、これまでは奇抜な、刺激的な内容の作品も増えていた。そこへ登場した『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は、エンタメ界に一石を投じる形にもなった。

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 7話と8話で登場した韓国南部・昌原に立つ「エノキ」は放送後、ひと目見ようとたくさんの観光客が訪れており、文化財庁は天然記念物指定調査を行うことを発表した。樹齢500年と推定されているこの「エノキ」が天然記念物に指定されればドラマが現実になると話題になっている。

 ウ・ヨンウが好きなものの設定は、恐竜や汽車などの候補があったそうだが、最終的に鯨になったそうで、そのため、事務所の名前も「ハンパダ」(大海)になったというエピソードも。また、ウ・ヨンウ関連の鯨グッズは売り切れ続出の状態だという。

 ウ・ヨンウが通勤途中、鯨が現れる漢江を渡るシーンは、背景に国会議事堂が見える地下鉄2号線、合井駅から堂山駅へ向かう車中からの光景だ。時々ここを通ると、もしかしたら鯨が現れるのではと目をこらしてしまう。