プロ野球でピッチャーフライは珍しい?

 ヤクルトの木澤尚文が投じた154キロのシュートがDeNAの4番・牧秀悟の胸元に食い込み、グシャッという音と共にマウンド前方に上がったフライを、木澤自らグラブに収める──。ヤクルトが7連敗の泥沼から抜け出し、11日ぶりの勝利を手にした8月14日のDeNA戦(神宮)では、そんな“珍しい”シーンがあった。

 ピッチャーフライなど珍しくも何ともないように思えるが、プロ野球ではあまりお目にかからない。この牧の打球は小フライだったため、最も近い位置にいた木澤が捕りにいかなければアウトにできなかった。だが、これが高々と上がったフライであれば、たとえマウンド近辺に落下しそうな打球であっても、投手以外の野手が捕るのが基本とされている。

 1980年代以前からプロ野球を見てきたファンならば、1981年の日本シリーズ第6戦で巨人・江川卓が9回2死からピッチャーフライを捕って日本一を決めたのを覚えていることだろう。江川は引退後に出版した自著『たかが江川されど江川』(新潮社)で、この場面を「日本一を決めるその一瞬に、僕の頭上に打球が上がったとき、これは絶対に、他の誰かに捕らせたくない、と僕は思ったのだ」と振り返っている。

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 このような何らかの意思がない限り、通常は平凡なフライであろうともピッチャーはフライが高く上がれば真っ先に落下点から“ハケる”。ただしヤクルトの守護神、スコット・マクガフの場合はその限りではない。

マクガフ

ファウルグラウンドまでフライを追いかけるマクガフ

 たとえば今年、7月19日に神宮球場で行われた巨人戦。9回表1死から丸佳浩が内野にフライを打ち上げると、マクガフはこれを目で追いながらマウンドを駆け降り、ファウルラインの外でグラブに収めた。あるいは昨年、ヤクルトがリーグ優勝を決めた10月26日の横浜スタジアム。DeNA戦の9回ツーアウトから佐野恵太が飛球を打ち上げるや否や、マウンドを降りて三塁側のファウルグラウンドまで追いかけていった彼の姿を覚えているファンも少なくないだろう(キャッチしたのは三塁手の村上宗隆だったが……)。

 そんなマクガフに以前、「フライを積極的に捕りに行くのはアスリートとしての本能のようなもの?」と聞いてみたことがある。「元内野手だからさ」。それが彼の答えだった。そう、知る人ぞ知る話ではあるが、マクガフはもともと内野手だったのである。

元“二刀流”のショートだった

 日本では今シーズンの途中まで野手としてプレーしていた中日のドラフト1位、根尾昂が投手に転向して大いに注目を浴びている。根尾は大阪桐蔭高では内外野と投手を兼務する“二刀流”で、3度の甲子園大会優勝に貢献。マクガフも高校時代から投手としても投げていたものの、本職はあくまでもショートストップだった。

「家(ペンシルヴェニア州モンローヴィル)から近い(ピッツバーグ・)パイレーツのファンだったんだ。お気に入りはショートのジャック・ウィルソン。(2004年にシルバースラッガー賞を受賞するなど)よく打ってたからね」

 マクガフは自らの少年時代についてそう語ったことがある。ピッツバーグにあるプラム高卒業時の2008年6月、その彼をドラフト46巡目(全体1371位)で遊撃手として指名したのが、ほかならぬパイレーツだった。当時はまだ「お気に入り」のウィルソンも在籍していたのだが、マクガフは長年のファンだった地元球団からの誘いには乗らなかった。