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ファウルグラウンドまでフライを追いかけるヤクルトの守護神・マクガフの原点

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/08/16
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長年ファンだったパイレーツから遊撃手として指名されるも…

「パイレーツから指名されるなんて最高の気分だった。正直、断るのは辛かったよ。ただ、彼らは(同じドラフトで)他にショートを4人指名していたんだ」

 確かにパイレーツは同年のドラフトで、のちにチームの正遊撃手となるジョーディー・マーサー(3巡目)をはじめ、マクガフの前に遊撃手を4人指名している。そのうち大学生が2人で、残りの2人は高校生。当時のマクガフには、彼らとの競争に打ち勝つだけの自信がなかったという。

「ショートを守るのは好きだったし、守備には自信があったけど、バッティングはそこまで得意じゃなかった。体が小さくてパワーもなかったしね。だから、その時点でプロ入りするのはいい判断じゃないと思ったんだ」

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プロ入りを拒否し大学に進学、投手としての才能が開花

 結局、マクガフはパイレーツの指名を拒否してオレゴン大に進学。そこで本格的に投手に転向して開花し、2010年には現ヤンキースのゲリット・コール(2021年ア・リーグ最多勝)らと共に日本で開催された第5回世界大学野球選手権の米国代表に選ばれる。翌2011年のドラフトではドジャースから投手として5巡目(全体164位)で指名され、プロの道へと進んだ。

「うれしかったね。歴史のある球団だし、なにしろ(本拠地は)大都市のロサンジェルス。あの時は興奮したよ」

 ドジャースではメジャー昇格はなく、LAでプレーすることのないままマーリンズへトレード。2014年にトミー・ジョン手術を受け、翌2015年には念願のメジャーデビューを果たすが、その後はメジャーのマウンドに戻ることなく2019年にヤクルト入りする。異国の地では中継ぎからスタートし、昨年は守護神としてチームをリーグ優勝、日本一に導いた。

今でもショートを守れるのでは?との問いに

 大学時代を最後に、ショートはもちろんピッチャー以外のポジションには就いたことがないというマクガフに「今でもショートを守れるのでは?」と水を向けたことがある。「んー、どうだろうね。もう長いこと守ってないからね」と言ってはいたものの、今でもフィールディングに自信を持っているのは間違いない。 

 6月30日の広島戦(マツダ)では1点リードの10回裏、無死一塁から自らの前に転がったバントを素早く拾って二塁に送るも、わずかに送球が逸れてオールセーフ。結果的にセーブ失敗に繋がるワンプレーになってしまった。それでももし、また同じケースに出くわしたなら、彼はアウトにできると思えば迷わず走者を刺しに行くだろう。

リーグトップタイのセーブ数、失敗はわずか2度

 もっともチームの守護神たるマクガフの仕事は、あくまでもピッチングで相手の攻撃を封じること。7連敗中は登板機会がなかったものの、冒頭のDeNA戦で11日ぶりのマウンドに上がると、相手打線を三者凡退に抑えて8月3日以来の白星をチームにもたらした。これで今季28セーブは巨人・大勢と並んでセ・リーグトップ。メジャーリーグでいうBlown Save(セーブ失敗)は2回しかない。

 野球では「たられば」は禁物といわれるが、もしも高校卒業時に遊撃手として憧れのパイレーツに入団していたら──。そうなれば今のマクガフはなかったかもしれないし、ヤクルトの昨年の日本一も、今年の首位独走もなかったかもしれない。そう考えると、少なくとも僕らにとっては、あの時の彼の選択は「正解」だったとしか思えない。

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