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“死に損なった”後の非情なリアル

「実はね、全国にある自殺の名所に比べて、東尋坊は死にづらい場所でもあるんですよ。海抜25mくらいしかないから、飛び込んでもだいたい3割くらいの人が大けがして助けられている。もともとそこまで高い岩場ではないので骨折で済んだり、岩場に当たらずに水面に叩きつけられるだけで助かるケースもあるんです」

 数年前の秋頃には、こんな女性がいたという。

「東北地方から来た30代の女性が崖から飛び降りてしまったんですが、水深が深いところには落ちず死なずに済んだんですね。岩につかまって『助けてー!』と叫んでいたら、観光客が発見して通報してくれた。それで防災ヘリが保護しました」

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NPO法人「心に響く文集・編集局」が撮影した自殺企図者の姿。「幼少のころから発達障害を患っており母親に預金通帳も取り上げられるなどの虐待を受けているため家には帰りたくなく職場を無断欠勤し自殺しに来た」(NPO法人「心に響く文集・編集局」提供)

 しかし、助けられた女性に突き付けられたのは高額の治療費だった。

「治療費は75万円。自殺未遂は一般的に保険が下りません。身一つで自殺しに来た女性にとったら、あまりに高すぎる金額ですわ。でも女性と話していると、うつ病を発症していたことが分かったんです。うつ病による自殺未遂は保険が適用されるんですよ。そうしたアドバイスをして、支援したこともありました」

 自殺の理由はそれぞれだが、厚労省の統計によると、うつ病などの精神疾患を含む健康問題が最も多く、金銭問題、人間関係が次に続く。自殺を免れても、支援があるかどうかで、その後に続く人生は大きく形を変えるだろう。

「恨みを晴らしたい」拡大自殺を防ぐためには

「自殺したらあかん! 東尋坊の“ちょっと待ておじさん”」(三省堂)

 そして、自殺にまで思い詰めるかどうかには、こうした「知識」のあるなしも大きく関わってくる。

「東北から東尋坊にやってきた60代女性のお話なんですがね、夫が会社社長をしている友人の連帯保証人になったら、その友人の会社が倒産してしまったんです。しかも夫が亡くなったことで自分が5000〜6000万円もの借金を抱えて家も財産も差し押さえられてしまった。でも、夫の友人は自己破産して子どものもとに身を寄せ、何事もなかったかのように外車を乗り回していると。

 それで『許せない、殺してやる』と友人の自宅近くで刃物や灯油を持って待ち伏せして、恨みを晴らすことだけを考えていた。しかし、結局は殺すことをあきらめて自殺しようと東尋坊に来たと言うんです。

 当時の彼女には怒りしかなかった。でもそのぶつけ方がわからなかったんやね。そこで私達はその女性に連帯保証人に関して『制度を改正してほしい』と国に要望を出すことなど、怒りの持っていき方をアドバイスしました。するとね、その女性は連帯保証人の恐ろしさを世に伝えるNPOを立ち上げたんですわ。今ではそこで活躍されているんです」